※本記事はコストコントロール連載 第4回です。第1回(FL比率・FLR比率とは:飲食店コストコントロールの最重要指標)、第2回(コストコントロールの3層構造|基礎・確定・横断で段階的に整備する飲食店経営)、第3回(月末まで人件費がわからない:紙シフト経営の構造的限界と脱却ステップ)もあわせてご参照ください。
はじめに:前回のおさらい
【この記事でわかること】
・シフトをデジタル化しても人件費が合わない理由
・シフト予定と実打刻のズレを生む5つの発生源
・人件費を「金額」ではなく「時間」で持つべき理由
・ズレを見つける3つの見方と、10%という運用上の目安
・ルールではなく「環境」でズレを直す具体策
【一言で言うと】
シフトをデジタル化しても、シフトで組んだ時間と実際に打刻された時間のズレは残ります。実例では1日で11%の差が出ていました。このズレは金額で見ていると単価の変動と打ち消し合って見えません。人件費を時間で持ち、店舗別・曜日別に予実を追うことで、月中に手が打てるようになります。
前回(第3回)では、紙やExcelでシフトを管理していると人件費の着地が月末まで見えないこと、そして打刻とシフト予定のデジタル化から始める4ステップをお伝えしました。
ところが、ここまで来た会社から、必ずと言っていいほど同じ相談を受けます。「デジタル化したのに、人件費が思ったところに着地しない」というものです。
原因はシンプルです。シフトで組んだ時間と、実際に打刻された時間が、そもそも一致していない。着地見込みの計算式が間違っているのではなく、計算に入れている「予定」と「実績」の間に、誰も見ていない差が積み上がっているのです。
今回はこのズレの話をします。金額ではなく「時間」で人件費を見ると何が起きるのか。ズレはどこで生まれるのか。そして、これがコストの問題である前に、もっと厄介な問題を抱えているという話です。
デジタル化しても、人件費はまだ合わない
まず、実際の数字をお見せします。ある店舗の、ある一日のデータです。
シフトで組んだ時間:69.5時間。実際に打刻された時間:77.25時間。
差は7.75時間。率にして11%です。1日で、です。
この差が何なのか、その場で説明できる人は現場にほとんどいません。私が実際にこの画面をお客様と一緒に見たときも、最初の反応は「これ何だったんだ」でした。誰かがサボっていたわけでも、記録が壊れていたわけでもありません。普通に営業していたら、こうなっていた。それが実態です。
そして厄介なのは、この7.75時間が月末の給与計算では正しく処理されてしまうことです。打刻された時間で給与は払われる。労務上は何も問題ない。だから誰も気づかない。気づかないまま毎日少しずつ積み上がって、月末に「予算より人件費が高い」という結果だけが残ります。
仮に時給1,200円で計算すれば、1日で約9,300円。これが月20営業日、10店舗で起きていれば月186万円という規模になります。もちろん、この差の全てが無駄というわけではありません。忙しくて必要だった残業も含まれます。問題は、必要だった分とそうでない分の区別がついていないことです。
ズレはどこで生まれるか──5つの穴
ズレが生まれる五つの穴
打刻そのものが確定しない
- 打刻忘れ・打刻漏れ
- 休憩打刻の未実施
営業の中で差が積み上がる
- 早出と居残り
- 当日の応援・ヘルプ勤務
- 事後の修正申請
どれも誰かの怠慢と決めつけず、打刻の設計や店舗への帰属、修正のタイミングまで分けて確認します。
このズレは、たった一つの原因から生まれているわけではありません。実際に多くの飲食企業の現場を見てきて、繰り返し出てくるのは次の5つです。
同じ一日を、シフトと打刻の両方で測ると差が出る
+7.75 時間(+11.2%)— この差が毎日積み上がります
この差は、どこから来るのか
①
打刻忘れ・打刻漏れ
退勤打刻が無い
②
休憩打刻の未実施
ピーク時に抜ける
③
早出と居残り
シフトの「外」
④
ヘルプ勤務の帰属
どちらの店の費用か
⑤
事後の修正申請
月末に集中する
5つのどれも「誰かの怠慢」ではなく、打刻の設計が営業の実態に合っていないことで起きます。だからルールの徹底では直らず、環境を変えるしかありません。
① 打刻忘れ・打刻漏れ
一番多く、一番軽く見られているのがこれです。出勤の打刻はしたが退勤の打刻をしていない。あるいはその逆。カードを取り違えた。
勤怠システム側から見ると、この2つはまったく違う意味を持ちます。所定労働日に打刻が一つもなければ「欠勤か」という判定になりますが、出勤打刻だけあって退勤打刻がないタイプの打刻漏れは、シフトとは関係なく帳尻が合わなくなります。つまり、その日の労働時間が確定できない。確定できないから、誰かが後から手で埋めることになります。
② 休憩打刻の未実施
こちらは、打刻のルール自体は運用されているのに、忙しい時間帯だけ抜け落ちるという性質があります。休憩に入る、抜ける、という打刻をピークの真っ最中に正確にやれというのは、現場の実感としてかなり無理があります。
結果として、休憩を取ったのに休憩打刻がない日ができる。その日は休憩時間ぶんだけ労働時間が多く計上されます。これは店舗の怠慢ではなく、打刻の設計が営業の実態に合っていないというだけの話です。
③ 早出と居残り──シフトの「外」
シフトは18時からなのに17時40分に打刻している。閉店作業が長引いて、シフト終了から30分後に打刻している。1回あたりは20分、30分の話です。
ただし、これが常態化している店舗とそうでない店舗では月の合計で大きく差がつきます。先ほどの69.5時間と77.25時間の差も、大半はここから生まれていました。開店前と閉店後の、シフトに書かれていない時間です。
④ 当日の応援・ヘルプ勤務
人が足りない店に他店からヘルプに入る。飲食チェーンでは日常的に起きます。
ここで問題になるのは、その労働時間がどちらの店舗の人件費に乗るのかです。所属店舗のまま計上されると、実際に働いた店の人件費は実態より軽く見え、送り出した店は重く見えます。店舗別に人件費率を管理していても、この処理が曖昧だと店舗間の比較そのものが成立しません。
⑤ 事後の修正申請
①〜④で生まれたズレは、最終的に修正申請という形で人の手に戻ってきます。店長が申請を上げ、上長が承認し、本部の労務担当が確認する。
この作業が月末に集中すると、申請の中身を精査する時間がなくなります。「とりあえず承認する」が積み重なると、修正申請は事実を記録する手続きではなく、数字を合わせるための儀式になっていきます。
なぜ「金額」で見ていると気づけないのか
ここまで読んで、「うちは毎月人件費率を見ているから大丈夫」と思われた方もいるかもしれません。しかし金額で見ている限り、この5つの穴は見えません。
理由は単純で、金額は「時間 × 単価」の掛け算だからです。時間が11%増えていても、その月にたまたま高時給のベテランのシフトが少なければ金額はそれほど動きません。逆に時間が適正でも、社員の残業単価や深夜割増が乗れば金額は膨らみます。金額という一つの数字の中で、時間の問題と単価の問題が打ち消し合ってしまうのです。
同じ人件費でも、「金額」と「時間」では見えるものが違う
人件費率
27.0%
= 先月とほぼ同じ
この1つの数字の中身は
超過した店舗・曜日・時間帯を直接特定できる
※ 金額での管理をやめる必要はありません。両方を持つのが正解です。左側の内訳(労働時間+11%/平均単価−10%)は、打ち消し合いの仕組みを示すための例です。
だから私は、人件費は必ず時間で持つべきだと考えています。時間で見れば「シフト何時間に対して実績何時間だったか」という予実がそのまま出ます。そこに単価を掛けるのは最後でいい。実際にお客様とお話ししていても、金額ベースで管理している会社ほど「なぜ人件費率が上がったのか」を説明できず、時間ベースに切り替えた会社ほど原因の特定が早くなります。
前回お話しした「月末を待たずに着地を見る」という話も、時間で持っていて初めて意味を持ちます。昨日のシフト時間と、昨日の打刻時間。この2つを並べる。それだけで、月末を待たずに手が打てる状態になります。
ズレは、コストの問題である前に、規律の問題である
ここからが、この回で一番お伝えしたいことです。
私は20年以上にわたって飲食企業の経営に携わってきましたが、シフトと打刻のズレを「コスト削減の対象」としてだけ見ていると、たいてい失敗します。このズレは、それ以上に組織の規律に効いてくるからです。
出勤時間が本当にシフト通りになっているか。そして、その時刻に正しく打刻できているか。これがずれていると、社内のモチベーションと規律が乱れていきます。典型的なのは、ベテランほど「自分のシフトは入っているけれど、自分は適当でいい」という状態になっていくことです。
これは能力の問題ではありません。ズレが誰にも指摘されない環境が、そういう振る舞いを許してしまうという話です。そして、その様子は新しく入ったスタッフからよく見えています。真面目に時間通り来ている人ほど、それを見て静かに冷めていきます。
もう一つ、シフトの組み方そのものが人を消耗させる場合もあります。ある飲食企業の方から、こんな話を伺ったことがあります。
週末だけすごい人が上がって、平日はすごい人数が下がるような組み方をしていると、結局スタッフの負担も重くなる。退職者も増えるみたいなことに繋がる
シフトと実績のズレを追いかけることは、単に無駄な人件費を削る作業ではありません。誰が、いつ、どれだけ無理をしているのかを、感覚ではなく記録で把握するということです。人が採れない時代に、これは経営にとって決定的な情報になります。
ズレを見つける3つの見方
では、実際にどう見つけるか。私たちが日々使っている見方を3つ紹介します。
① 店舗別の乖離率──10%を超えたら聞きに行く
まず、店舗ごとに「シフト時間に対して実績が何%か」を出します。全店を一覧にすると、必ず外れる店が出ます。
運用上の目安として、10%以上の超過が出ている店舗は要注意と考えています。この水準を超えたら、その店に何があったのかを聞きに行くべきです。「なぜ超えたのか」の答えは、上に挙げた5つの穴のどれかにほぼ収まります。
大事なのは、これを責めるためではなく、原因を特定するために聞くことです。イベントが入って必要だった残業なら、それは正しい超過です。記録すべきは「超過した」という事実ではなく、「なぜ超過したか」の中身です。
② 曜日・時間帯別で見る
店舗別で外れ値が見つかったら、次はその店を曜日と時間帯で割ります。
金曜の夜だけ超過しているのか、平日の開店前だけ超過しているのかで打ち手はまったく違います。前者ならシフトの人数設計の問題、後者なら開店準備の作業設計か、早出打刻の運用の問題です。同じ「10%超過」でも、中身が違えば手当ても違う。ここを分けずに「人件費を締めろ」と言うと、必要な人員まで削って売上を落とします。
③ 個人別で見る
最後が個人別です。これは扱いに注意が要りますが、避けては通れません。
特定の個人に恒常的なズレが集中している場合、それはその人の問題であるより先に、その人の打刻環境の問題であることが多いです。厨房の奥で働いていて打刻端末まで遠い、という物理的な理由で毎日5分ずつずれている、というのは実際によくあります。
ルールでは直らない。環境で直す
打刻のズレを直す環境
朝礼で打刻ルールを徹底すれば直ります
忙しい時間帯でも押せるよう、端末を人が必ず通る動線へ置きます
打刻端末は店舗に一台あれば足ります
意識して端末まで行く配置を避け、必要なら端末の台数を増やします
修正申請は月末にまとめれば効率的です
エラーと申請を日次で見て、記憶が新しいうちに内容を確かめます
さて、ここが実務上いちばん重要なところです。
打刻のズレを「ルールの徹底」で直そうとすると、まず失敗します。「打刻を忘れないように」と朝礼で言い続けても、忙しければ忘れます。ルール化だけでは解決できない環境的な要因が残っているからです。
そして、機械的なエラーを放置したままにすると、もっと悪いことが起きます。「どうせ後で修正申請すればいい」が常態化し、やがて遅刻の隠蔽と見分けがつかなくなる。打刻の精度が落ちると、記録そのものが信用を失います。
だから、環境の側を変えます。具体的には次の3つです。
打刻端末は「人の動線」に置く
パソコンでの打刻は、本人が意識して打刻しに行かないと発生しません。意識しなければ忘れます。
現実的で効果が高いのは、中古のスマートフォンに勤怠アプリを入れ、結束バンドで固定して、厨房内など人が必ず通る場所に設置する方法です。打刻場所を増やすより台数を増やすほうが現実的なケースが多く、設置コストは中古端末の代金だけで済みます。打刻端末を1台増やすかどうかで、月末の修正申請の件数が変わります。
とにかく目立たせる
これは細かい話に聞こえますが、効きます。打刻場所は、とにかく目立つ場所に置く。キラキラ光るものを周りに貼るくらいでちょうどいい。
打刻は「思い出してもらう」ものではなく、「目に入るから押す」ものにする。この発想の転換だけで、打刻漏れは目に見えて減ります。
修正申請を月末に溜めない
修正申請は、発生した日のうちに処理するのが理想です。翌日でもいい。とにかく月末にまとめない。
そのために、打刻エラーの件数と修正申請の件数を、店舗ごとに日次で見える状態にします。「今日、この店で打刻エラーが3件出ている」がその日のうちに分かれば、記憶が新しいうちに正しく直せます。月末に30件まとめて出てきたものは、もう誰も正確には思い出せません。
なお、勤怠システム側にも打刻漏れの通知機能を持つものがあります。「あなたは打刻漏れをしていませんか」という判定を仕組み側で行い、本人にメールを飛ばす。使えるものは使ってください。
まとめ
- シフトをデジタル化しても、シフト時間と実打刻時間のズレは残る。実例では1日で11%の差が出ていた
- ズレの発生源は主に5つ。打刻忘れ/休憩打刻の未実施/早出・居残り/ヘルプ勤務の帰属/事後の修正申請
- 金額で見ていると、時間の問題と単価の問題が打ち消し合って見えなくなる。人件費は時間で持ち、単価は最後に掛ける
- ズレはコストの問題である前に規律の問題。放置するとベテランから緩み、真面目な人から冷めていく
- 見つけ方は店舗別(10%超過が目安)→曜日・時間帯別→個人別の順に絞る
- そしてルールでは直らない。打刻端末の位置と数、目立たせ方、修正申請を溜めない仕組みという「環境」で直す
よくある質問(FAQ)
Q. シフトと実打刻のズレは、何%までなら許容範囲ですか?
一律の正解はありませんが、運用の目安としては10%以上の超過が出た店舗を確認対象にしています。重要なのは基準値そのものより、超過したときに「何があったか」を必ず聞きに行く運用を回すことです。原因が説明できる超過は問題ありません。説明できない超過が続く店舗が、本当の要注意先です。
Q. 打刻の精度を上げるには、まず何から手を付けるべきですか?
打刻端末の位置と台数からです。ルールの周知や朝礼での呼びかけは、環境が悪いままだと効果が続きません。人が必ず通る場所に、目立つ形で、複数台。ここを直すだけで修正申請の件数が変わります。中古のスマートフォンを使えば費用はほとんどかかりません。
Q. ヘルプ勤務の人件費は、どちらの店舗に計上するのが正しいですか?
実際に働いた店舗に計上するのが原則です。所属店舗のまま計上すると、店舗別の人件費率が実態からずれ、店舗間比較が成立しなくなります。多くの勤怠システムでは打刻場所を端末ごとに指定できるため、ヘルプ先の端末で打刻すれば自動的に振り分けられる設定が可能です。導入前に、この設定ができるかを必ず確認してください。
Q. 人件費を金額ではなく時間で管理すると、何が変わりますか?
原因の特定が早くなります。金額は「時間×単価」なので、時間の増加と単価の変動が同じ数字の中で混ざります。時間で持てば「シフト何時間に対して実績何時間」という予実がそのまま出るため、超過した店舗と時間帯を直接特定できます。単価は最後に掛ければよく、金額での管理をやめる必要はありません。両方を持つのが正解です。
Q. 勤怠システムとPOSがバラバラでも、時間の予実は見られますか?
見られます。多店舗・多ブランドで勤怠システムやPOSが混在している企業は珍しくありません。重要なのは、それぞれのシステムからシフトデータと打刻データの両方を取得できるかです。片方しか取れないと予実になりません。導入検討の際は、シフト(予定)側のデータが取り出せるかを必ず確認してください。
時間で管理するには、実際に何をすればよいか
ここまでに挙げた3つの見方——店舗別の乖離率、曜日・時間帯別、個人別——を毎日回すには、シフトと打刻を日次で並べる仕組みが要ります。いま使っている勤怠システムを止めずに、それをどう用意するのか。料金と導入までの流れも含めて、別の記事にまとめました。人件費を金額ではなく労働時間で管理する:シフトと実打刻の日次予実をご覧ください。昨日の人件費を給与計算とほぼ同じ計算で出す仕組みは、人件費:給与計算とほぼ同じ計算で、昨日の人件費が出るに書いています。シフトそのものを自動で組む仕組みは、全自動シフト作成:売上予算とAIの売上予測から、シフトが自動で組み上がるにあります。
次回予告:売上速報のExcel作成をやめる
次回は、多くの飲食企業で本部の負担になっている「売上速報づくり」を取り上げます。前日の売上を集計して朝までに配る、あの作業です。速報のために休日出勤が発生している会社は実際に少なくありません。なぜあの作業が消えないのか、どうすれば消せるのかをお話しします。→ 売上速報のエクセル作成をやめる:多店舗飲食の本部集計を自動化(公開済み)
TEAL BIについて
TEAL BIは、(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けの経営データ統合ダッシュボードです。複数メーカーのPOSレジ・勤怠・仕入の各データを自動連携し、統一フォーマットに変換したうえで、店舗別・日次でFL比率・確定原価率・人件費の着地見込みを可視化します。本記事で紹介した「シフト時間と実打刻時間の予実」も標準機能として日次で表示され、店舗別・曜日別・時間帯別に乖離を追跡できます。グループ代表自身が20年以上にわたって飲食店経営の現場に携わってきた経験から立ち上げた事業で、現場の経営者が本当に必要とする数字が実装されているのが特徴です。
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執筆:斉田 教継((株)ラックバッググループ / (株)ティールテクノロジーズ 代表取締役)
20年以上にわたり飲食企業の経営に携わる。(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けデータ統合ダッシュボード「TEAL BI」の事業を主導する。一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム データ標準化分科会長として、業界共通POS標準フォーマット基盤の構築を主導。




