「現場が反対しているので進められません」と、何年言い続けていますか|心地良さは判断基準になりません

システム導入に現場が反対して止まっている状態と、慣れたあとに発注・請求・棚卸・勤怠の作業が軽くなることを対比した TEAL BI の記事アイキャッチ

【結論】飲食企業の経営者と話していると、驚くほど高い頻度で同じ言葉を聞きます。「やったほうがいいのは分かっている。ただ、現場が反対していて進められない」。あるやり方に最適化された人にとって、別のやり方は必ず不便に感じられます。それは移行のコストであって、新しいやり方の性能ではありません。ただし「慣れの問題だ」は、経営者が現場を黙らせるための言葉ではありません。慣れた先に本当に現場が楽になっているかを、経営者が自分に問う言葉です。そのうえでなお進めると決めたなら、そこからは経営の仕事になります。

「現場が反対するので進められません」

新しい仕組みを入れるべきだと、経営者自身が判断している。それでも、現場に説得されて止まる。半年経っても、一年経っても、同じ場所に留まっている。

これは、思っているより危険な状態です。そして多くの経営者が、この危険性を過小評価しています。止まっていること自体には痛みが伴わないので、放置しても誰も困らないように見えるからです。

馬車に乗っている人に、自動車は不便でしかありません

前提として、現場がいままでのやり方を手放せないのは、当たり前のことです。怠慢でも、能力不足でもありません。

馬車に乗り慣れた人に自動車を渡したら、どうなるか。長期的に便利になることは頭では分かっていても、最初は不便に決まっています。運転の仕方も、給油の仕方も、故障したときの対処も、何ひとつ身体に入っていない。馬車なら考えずにできたことが、いちいち止まってしまう。

ガラケーを何年も使ってきた人が、初めてスマートフォンを持たされたときも同じでした。文字入力ひとつでいらいらする。いままで一瞬でできていたことに、3倍の時間がかかる。「前のほうが良かった」と、本気で思う。

あるやり方に最適化された人にとって、別のやり方は必ず不便に感じられます。これは感情の問題ですらなく、構造の問題です。最適化されているからこそ、そこから動くと必ず性能が落ちる。一時的に。

そして、いまその人たちにガラケーへ戻れと言っても、誰も戻りません。不便だったのは移行の期間だけで、慣れてしまえば比べものにならないほど便利になっているからです。

落ち込むのは、移行の期間だけです

移行の期間に見えている景色

「前のやり方のほうが早い」は、この時点では事実です

  • 運転の仕方も給油の仕方も、まだ身体に入っていない
  • いままで一瞬でできたことに、3倍の時間がかかる
  • このまま戻らないように見える
実際に起きていること

慣れたあとは、元の水準を上回ります

  • 作業そのものが消えるので、前より軽くなる
  • 一度きりではなく、毎月・毎年 効き続ける
  • ガラケーに戻る人がいないのと同じです

不便は移行のコストであって、新しいやり方の性能ではありません。ここを取り違えると、判断を誤ります。

図1:やり方を変えた直後は効率が一時的に落ち、慣れたあとには元の水準を上回る。破線がいままでのやり方の水準で、左右とも同じ目盛。

発注をデジタル化する、という話

具体例で考えます。

長年、仕入の発注を電話とFAXでやってきた店舗があるとします。これをシステム経由の発注に切り替える。現場の担当者からすれば、きわめて面倒な話です。いままでは受話器を取れば済んでいた。それがPCを開き、画面の操作を覚え、慣れない手順を踏むことになる。「前のやり方のほうが早い」という声は、移行の直後には事実です。

一方、会社全体では何が起きるか。

  • 発注価格が会社の管理下に入り、取引条件が個人の関係性ではなく会社の意思で決まる状態になる
  • 納品されたものを受領・確定するだけで請求金額が確定する。業者に請求書を発行してもらう必要すらなくなる
  • そのまま振込データまで作成できる。経理の突き合わせ作業が消える
  • 仕入データが蓄積されるので棚卸表が自動で作られる。現場は数を入れるだけになる

会社全体で見れば、削減される作業量は膨大です。しかもそれは一度きりではなく、毎月、毎年、効き続けます。

そして重要なのは、発注担当者本人にとっても、慣れたあとのほうが確実に楽だということです。電話をかけ、控えを保管し、届いた納品書と突き合わせ、月末に請求書と照合する。この一連の作業が消えるのですから。

不便なのは、最初だけです。この切り替えを実際にどう進めるか——取引先にどう声をかけ、どの方法を選ぶか——は「確定原価が翌月1日に出る会社と、20日にしか出ない会社の違い」に書きました。棚卸表が自動で作られたあと、その数字をどう読むかは「棚卸高は、店舗ごとにいくらが適正か把握できていますか」にあります。

勤怠も、シフトも、同じ構造です

紙とExcelで回してきた勤怠をシステム化する。シフト作成をExcelからシステム上へ移す。どちらも、現場からは必ず抵抗が出ます。「いままでのExcelのほうが早い」と。

しかし移行が終われば、社員もアルバイトも1つのアプリで完結し、労働時間の速報が自動で見えるようになり、締めの集計で手戻りが起きなくなる。誰も、紙とExcelには戻りたがりません。紙のシフトのまま月末を迎えると何が起きるかは「月末まで人件費がわからない」に書きました。

構造はまったく同じです。不便は移行のコストであって、新しいやり方の性能ではありません。ここを取り違えると、判断を誤ります。

ただし「慣れの問題だ」は、現場に言う言葉ではありません

ここで1つ、経営者側が自戒すべきことがあります。

世の中には、慣れても面倒なままだった導入も確かに存在します。入力項目と承認ステップだけが純増して、現場には何ひとつ返ってこない。そういう仕組みを入れられた経験のある人は、次の変革にも当然反対します。その反対は正当です。

ですから「慣れの問題だ」という言葉は、経営者が現場を黙らせるために使う言葉ではありません。経営者が自分自身に課す検証です。

慣れた先に、本当に現場が楽になる設計になっているか。増える手間に見合うものが、その人自身にも返ってくるか。そこを確かめもせずに「慣れの問題だ」と押し切るなら、それはただの怠慢です。

検証したうえでなお「これは慣れの問題である」と結論が出たなら、そこからは経営の仕事になります。

部分最適の声だけを聞くと、会社は止まります

店舗には店舗の最適があり、本部の各部門にはその部門の最適があります。担当者が自分の持ち場でもっとも効率の良いやり方を考えるのは、その人の職務そのものであって、責められることではありません。

しかし、部分最適の総和は、全体最適にはなりません。ここが経営の急所です。

さらに厄介なのは、この判断が構造的に歪むことです。変更によって生じる不便は、その日から誰かが体感し、明確な声になります。一方で、変えなかったことによって失われる利益は、誰も体感しません。毎月消えていく数十時間も、いつまでも見えない仕入価格も、声を上げないからです。

現場の声の大きさを、そのまま損得の大きさとして読まない

現場から不満の声が上がっていないのだから、いまのやり方で問題は起きていない

変えなかったことで失われている利益は、そもそも声になりません。毎月消えていく数十時間も、いつまでも見えない仕入価格も、誰も体感しないからです

不便だという声がこれだけ出ているのだから、この変更は間違っていた

変更による不便は、その日から特定の誰かにはっきり降りかかります。声の大きさは、会社にとっての損得の大きさではありません

現場がいちばん実態を分かっているのだから、現場の判断に従えばよい

店舗には店舗の、部門には部門の最適があります。部分最適の総和は全体最適にならず、両方を並べて比べられる場所は社内に経営しかありません

図2:変えたことによる不便は声になり、変えなかったことによる損失は声にならない。この非対称を、現場の声の読み方として並べた図。

体感できる不便と、体感できない損失。この2つを並べて比較できる場所は、社内に1か所しかありません。経営です。

数字にすれば、体感できないほうも見えるようになります。店舗ごとの原価がどう動いてきたかを長期で並べる方法は「売上が伸びていないのに、棚卸高だけ増えていませんか」に書きました。見えるようにすること自体が、この非対称を埋める作業です。

居心地の悪い改革を、誰が背負うのか

ですから改革を進めるときは、ベンダー側と、現場の責任者、それもできる限り上位の責任者が、正面から担当する必要があります。担当者レベルに投げた瞬間に、その改革は「部分最適の声」に負けます。

そして伝えるべきは、機能の説明ではありません。

なぜこれをやるのか。会社全体に何が起きるのか。そして——ここがもっとも抜けやすいのですが——あなた自身にとって、慣れたあとに何が良くなるのか。この3つを、丁寧に、繰り返し説明する。

現場にとって最高に居心地の悪い改革を、経営が責任を持って引き受ける。それができない会社は、稟議も、勤怠も、発注も、10年前のまま止まり続けます。

現場が心地良いと感じるやり方は、会社にとって最適とは限りません。むしろ、心地良さは判断基準になり得ない。

そのことを引き受けるのが、経営者の仕事だと考えています。

TEAL BIについて

TEAL BIは、(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けの経営データ統合ダッシュボードです。複数メーカーのPOSレジ・勤怠・仕入の各データを自動連携し、統一フォーマットに変換したうえで、店舗別・日次でFL比率・確定原価率・人件費の着地見込みを可視化します。複数の飲食企業で本番稼働しています。グループ代表自身が20年以上にわたって飲食店経営の現場に携わってきた経験から立ち上げた事業で、現場の経営者が本当に必要とする数字が実装されているのが特徴です。

私たちがこの仕事で難しいと感じるのは、技術ではなく、いつもこの部分です。「慣れたあとに、あなた自身の何が楽になるのか」を現場に説明しきれるかどうかで、導入の結果は変わります。お問い合わせはこちらから承っています。

執筆:斉田 教継((株)ラックバッググループ / (株)ティールテクノロジーズ 代表取締役)
20年以上にわたり飲食企業の経営に携わる。(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けデータ統合ダッシュボード「TEAL BI」の事業を主導する。一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム データ標準化分科会長として、業界共通POS標準フォーマット基盤の構築を主導。

投稿者プロフィール

斉田 教継株式会社ラックバッググループ 株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役
斉田 教継(さいだ のりつぐ)
株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役
株式会社ラックバッググループ 代表取締役
20年以上にわたり飲食企業の経営に携わる。現在は飲食企業向けデータ統合ダッシュボード「TEAL BI」を運営する。一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム データ標準化分科会長として、業界共通POS標準フォーマット基盤の構築を主導。