【コラム7】「DXを贅沢品から経営インフラへ」

――飲食企業が最初に見直すべき5つの問い――

ある中堅チェーンの社長と、初めてDXの話をしたときのことです。

「うちはそんなに大きな会社じゃないし、DXはまだ贅沢かなと思っていて…」

という言葉から始まりました。
いろいろと話を聞いていくと、

  • 店舗数は今後も増やしていきたい

  • 人手不足はすでに限界に近い

  • 店長の業務負荷も高く、長時間労働が当たり前

  • 売上は伸びているのに、利益率は頭打ち

という典型的な“成長の壁”にぶつかっていました。

そこで、私は逆にこうお聞きしました。

「この状態で、DXを『贅沢品』として棚上げしておく余裕は、本当にありますか?」

少しの沈黙の後、その社長は
「…それはないですね」と静かに言いました。

1. DXを「コスト」ではなく「インフラ」として捉え直す

飲食企業が本気でDXに向き合うとき、

最初の一歩は「捉え方のアップデート」です。

次の5つの問いを、自社に投げかけてみてほしいと思います。

  1. 情報システムを「コスト」ではなく「経営インフラ」として見ているか

  2. 「人件費の方が安いから」という理由で、DXを贅沢品扱いしていないか

  3. ベンダーだけでなく、「社内の特定の担当者」にロックインされていないか

  4. DXの荒波を受け止める“サンドバッグ役”としての役員スポンサーがいるか

  5. 「業務を変える前提」でSaaSやシステムを選べているか

この5つの問いに、
どれだけ自信を持って「YES」と言えるかが、
DXの本気度を測る一つの物差しになります。

2. 「まだうちは早い」は、だいたいもう遅い

>DXを「贅沢品」と捉えている間に何が起きるか。

  • 競合は少しずつ、でも確実に「仕組み側」に仕事を寄せていく

  • データの精度・スピード・粒度の差が広がる

  • 店舗数が同じでも、利益率と生産性の差がじわじわ開く

DXは、“一発逆転の魔法”ではありません。
「仕組みへの移行スピード」の差が、数年後の差になるゲームです。

だからこそ、

「うちはまだ小さいから」「もう少し落ち着いてから」

という言葉が出ている時点で、
実はゲームのスタートに、すでに出遅れている可能性があります。

3. ティールの斉田として、飲食DXに期待していること

ティールテクノロジーズとして、私は「飲食DX=デジタル化」だとは思っていません。

  • お客様の体験をどう設計し直すか

  • 店舗運営の前提をどう再定義するか

  • 経営の意思決定を、どこまでデータドリブンにできるか

  • そして何より、“人が人にしかできない働き方”に、どうリソースを振り直すか

DXは、この一連の問いを避けずに、
構造からやり直していくプロセスだと考えています。

4. まず「問い」を変えるところから始める

すぐに巨大なプロジェクトを始めなくても構いません。

でも、問いを変えることだけは、今日からできます。

  • 「人とシステム、どちらが安いか?」ではなく、
    「この先5年で、何を“仕組み側”に移すべきか?」

  • 「情シスに任せる」ではなく、
    「経営として、どこまでITとデータの責任を取るか?」

  • 「SaaSに何を足すか?」ではなく、
    「どこまで業務をSaaSの標準に寄せられるか?」

こうした問いを、
経営会議の真ん中に置いてもらうこと。

そこから、飲食企業のDXはやっと“本当のスタートライン”に立てると思っています。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。