月末の最終営業日。閉店後の店内は静まり返り、レジだけが小さな光を放っていた。
本部では、明日の朝一で役員会がある。資料には「売上」「客数」だけでなく、「日次の粗利」「人件費の波」「値引きの内訳」まで出したい。
――つまり、“経営に使えるデータ”が必要だった。
ところが、ここで初めて問題が噴き出す。
「必要な粒度のデータが出ません」
「その項目は管理画面からは見られますが、出力はできません」
「APIはありますが、範囲はこの項目までです」
ベンダーの回答は丁寧だ。嘘もない。けれど、欲しいものに届かない。
さらに追い打ちをかけたのが、障害対応だった。
ある日、ピーク帯に会計が詰まり、サポートに電話した。つながるまでに時間がかかり、一次回答は“再起動してください”。
再起動しても直らない。原因はネットワークか端末か、あるいは周辺機器か。切り分けができない。
結局、現場はその場しのぎで乗り切り、本部は深夜まで復旧作業に付き合うことになった。
翌朝。役員会の資料は、必要な粒度が揃わず、判断が“感覚”に寄ってしまった。
店長はぽつりと漏らした。
「POSって、導入して終わりじゃないんだな。止まった時にどれだけ早く戻るか。データがどこまで取れるか。そこが一番大事だったんだ」
この回のテーマは、ここです。
POS選びの最終決定打は、見た目の機能ではなく、保守・復旧(止まった時に戻せる力)と、データ連携(経営に使える粒度で取り出せる力)。ここを外すと、数年後に“詰み”が起きます。
今回のポイント
ここまで第1回・第2回で、現場の摩擦とネットワークの重要性を整理しました。
最後の第3回は、POS選定の「最終的に効いてくる要素」を扱います。
それは、**保守・復旧(止まった時にどれだけ早く戻るか)**と、**データ連携(将来の集計・分析・拡張性)**です。
POSは、導入初期の使い勝手よりも、数年単位で見たときに“詰み”が起きやすい領域です。
その詰みの正体は、だいたいこの2つに集約されます。
1. 保守は「ある/ない」ではなく「どこまで・どれだけ早く」が本質
多くの会社が、サポート体制を“雰囲気”で判断してしまいます。
しかし現場にとって大事なのは、次の問いです。
- トラブル時に、誰が一次対応するのか(現場?本部?ベンダー?)
- どのチャネルで連絡できるのか(電話・チャット・専用窓口)
- 何分で折り返しが来るのか
- 何時間で復旧が期待できるのか
- 駆けつけがあるのか(あるなら対象範囲はどこまでか)
ここを曖昧にしたまま導入すると、「止まった時に詰む」状態になります。
特に多店舗展開や遠隔地の店舗がある場合、現場が耐えられる復旧スピードを、事前に決めておく必要があります。
なお、従来型の専用機が強いのは、長年の保守網があるため、駆けつけも含めた復旧設計が完成しているケースが多い点です。
タブレット型でも、ここまで整えたモデルはありますが、ベンダーによって差が大きいので、必ず確認すべきポイントです。
2. “安い”の比較は危険。見るべきはTCO(総保有コスト)
POSは月額や端末費だけ見ていると判断を誤ります。
本当に見るべきは、TCO(Total Cost of Ownership:総保有コスト)です。つまり数年で払う総額です。
総保有コストには、次のような“見えにくいコスト”が乗ります。
- トラブル対応で本部が駆けつけるコスト(移動、工数、機会損失)
- 現場が止まるコスト(売上機会、クレーム、体験品質の毀損)
- 端末更新・入替の工数(設定、教育、統一管理)
- ネットワーク機器の設計・保守コスト(業務用機器、監視、設定変更)
短期で安く見える選択が、中期で最も高くつくことは珍しくありません。
だからこそ「安いから」で決めるのではなく、「どの運用モデルが自社に合うか」で決めるべきです。
3. データ連携は“後から考える”と詰む。最初に確認すべき設計がある
もう一つの大きな落とし穴が、データです。
POSは導入して終わりではなく、運用が回り始めた瞬間から「集計」「分析」「改善」が始まります。ところが、この“後工程”に必要なデータが取れない、もしくは取りにくいと、改善が止まります。
ここで重要なのは、POSの機能一覧ではなく、データがどの粒度で、どの頻度で、どんな形で取り出せるかです。
最低限、導入前に確認しておくべき観点は次の通りです。
- どんな形式で出力できるか(CSV、API、SFTP、管理画面DLなど)
- 出力タイミング(リアルタイム、日次バッチ、手動ダウンロード)
- 粒度(伝票、明細、商品、割引、税、支払、取消、訂正、返品など)
- 営業日・締めの考え方(いつの売上として計上されるか)
- マスタ(商品・部門・店舗・スタッフなど)の管理と変更履歴
- 例外処理の記録(エラー、通信断、再送、重複など)
そしてここは、メーカーやシステムの思想で大きく違います。
「データは出るはずです」という曖昧な回答で進めると、あとで必ず苦しみます。実際に、欲しい粒度のサンプルを出してもらい、確認してから決めるのが安全です。
4. ベンダーロックを避ける、という視点
データ連携の観点で、もう一つ重要なのが「ベンダーロック」です。
ベンダーロックとは、特定のメーカーやサービスに依存しすぎて、後から乗り換えや拡張が難しくなる状態を指します。
POSは一度入れると、店舗オペレーション、教育、周辺機器、会計処理、集計フローが絡み合い、簡単に変えられません。
だからこそ、最初の段階で「データが取り出せる」「外部連携が現実的」という設計にしておくことが、将来の自由度を決めます。
5. 第3回のまとめ:「運用モデル」を言語化できれば、POS選びは失敗しない
この連載の結論を、最後に一文でまとめます。
POSを選ぶとは、POSの機能を選ぶことではなく、自社が現実に回せる“運用モデル”を選ぶこと。
そして運用モデルの最終決定打は、保守・復旧とデータ連携です。
- 何か起きた時に、誰が何分で動き、何時間で戻すのか
- 数年先の改善活動に必要なデータが、欲しい粒度で取れるのか
- 将来の拡張で詰まない構造になっているのか
この3点を押さえた上でPOSを選べば、メーカー名に左右されず、最適解に近づけます。
迷ったら、遠慮なく相談してください
ここまで読んでも「結局うちはどうすればいい?」となるのが普通です。
POSは業態や運用体制で最適解が変わり、カタログ比較では答えが出ません。
私は、多数のPOSとデータ連携を構築してきた立場として、各POSの仕様やデータの癖、連携の難所を“集計側”から理解しています。さらに飲食企業の経営者として、現場の混乱やトラブルがどう現実の損失になるかも体感してきました。
だからこそ、「導入前にどこを確認すべきか」「自社に合う運用モデルはどれか」を、現実ベースで一緒に整理できます。
悩んだら、遠慮なく相談してください。状況を伺った上で、最短で“詰まない選び方”に落とし込みます。
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