【POSレジの選び方:第1回】「安いからタブレットへ」の前に。乗り換えで必ず起きる“現場の摩擦”と、その設計

POSレジを乗り換えたら起きた事

金曜の夜、19時。店内は満席、厨房は戦場、ホールは笑顔のフル回転。
その日だけ、店長の頭の中に“別の音”が鳴っていました。ピコン、ピコン。新しいPOSの通知音です。

「今日からタブレットに切り替えました。前のより安いし、機能も多いし、きっとラクになりますよ」
導入説明でそう聞いたのは、たしか一週間前。マニュアルも研修もやった。準備はしたはずでした。

でも現場は、研修通りには動いてくれません。
ピークに入った瞬間、スタッフの指先が“いつもの速度”で動く。すると画面は、思ったほど反応しない。
「……あれ?押したのに」「もう一回……あ、二重入力になった」
ホールの片隅で、ほんの数秒のつまずきが連鎖していく。注文が詰まる。厨房の出数がズレる。提供のテンポが狂う。お客様の視線が、わずかに鋭くなる。

追い打ちをかけたのはハンディでした。
以前の専用端末は、画面を見開きで扱えて、指が“勝手に”動く感覚があった。ところが今はスマホサイズ。表示が小さく、画面を切り替えるたびに一呼吸増える。
「慣れれば大丈夫」と頭では分かっているのに、ピーク帯は慣れる前に終わらない。

営業が落ち着いた23時。レジ締めの前に、店長はバックヤードでため息をつきました。
「安くしたつもりが、現場の疲労が増えてる。これ、どこを直せば“元の強さ”に戻るんだろう」

この話のポイントは、“タブレットが悪い”ではありません。
乗り換えとは、端末を変えることではなく、現場の操作モデルと教育設計を変えること。まずそこを織り込めるかで、導入の成否は決まります。


POSレジの入れ替え相談で多いのが、「タブレット型の方が安いから」という理由で乗り換えを決めた結果、現場が疲弊してしまうケースです。ここで誤解されがちなのは、タブレット型が悪いのではなく、乗り換えによって“現場の操作感”と“運用の前提”が変わることを、導入前に織り込めていない点にあります。

結論から言うと、POSの入れ替えは「機械を変える」のではなく、**現場の手数・ストレス・教育設計を含めた“オペレーションの仕様変更”**です。まずはこの現実を、導入側が真正面から受け止めておくことが大切です。


1. 操作性は“慣れ”で吸収できる。でも最初の反発はほぼ確実に出る

従来型の専用機(ハード一体型)の強みは、忙しいピーク帯でも迷わず打てることです。
タッチやボタンが「多少雑でも入力が通る」前提で作られているため、現場が反射で動けます。

一方で、タブレット型はどうしても入力が繊細になります。
触り方、画面遷移、タップ精度、端末の反応速度など、細部の積み重ねがピーク帯のストレスになります。

これはスマホが普及しきった今でも、飲食の現場だと顕在化します。理由は簡単で、飲食のピーク帯は“操作を丁寧にする余裕”が最初からないからです。

ここで大事なのは、「だからタブレットはダメ」と結論づけることではありません。
大事なのは、反発が出る前提で、導入初期の教育とフォローを設計することです。


2. ハンディ(オーダー端末)の違いは、現場の体感を一番揺らす

乗り換えで最も不満が出やすいのがハンディです。

専用ハンディは、現場向けに「迷わず押せる」ように最適化されています。
一方、スマホ型のハンディは画面が小さく、表示の切り替え(スワイプや遷移)が増えやすい。これは現場から見ると「一手増える」感覚になります。

そしてこの“たった一手”が、業態によっては体験品質に直結します。
たとえば、サービスのテンポが価値の店、客単価が高く会話の間が重要な店、料理提供のタイミングが繊細な店ほど、オーダー入力の詰まりが目立ちます。

ここも「慣れ」で一定は改善しますが、ゼロにはなりません。
だからこそ導入前に、**忙しい時間帯の実地テスト(ピーク帯の動線で試す)**が必須です。


3. 端末コストは「中古で安い」で決めると、運用コストで跳ね返る

タブレット型の魅力として「端末が市場にあり、中古も使えて安い」という話があります。これは事実です。
ただし、端末運用のルールが弱い会社ほど、別のコストが増えます。

  • OSやアプリ更新で、ある日突然挙動が変わる
  • 店舗ごとに端末の世代・状態がバラつき、トラブルが再現しない
  • 紛失・破損の際に、代替機の設定が属人化して復旧が遅れる

タブレット型の本質は、「端末そのものが安い」ではなく、端末運用を社内で回せると強いという点です。
逆に言うと、端末運用の設計がないまま安さだけで走ると、現場と本部が振り回されます。


4. ここまでのまとめ:第1回の判断軸は「現場が耐えられるか」

第1回の結論はシンプルです。
POSの乗り換えでまず見るべきは、機能比較の表ではなく、現場がその操作モデルに耐えられるかです。

導入前に、最低限この3点は確認してください。

  1. ピーク帯を想定した操作テストができるか
  2. ハンディ運用(画面遷移・入力手数)の違いを現場が許容できるか
  3. 端末運用(更新・統一・故障時の復旧)を社内で回せるか

次回予告:本当の事故は“ネットワーク”から始まる

操作性や端末は、時間をかけて慣れで吸収できることも多いです。
一方、慣れでは解決しないのがネットワークです。次回は「POSトラブルの多くはWi-Fiが原因」という現実を、分かりやすく深掘りします。


困ったら、遠慮なく相談してください

POSの選定は、メーカーの良し悪しではなく「自社に合う運用モデル」を作れるかで決まります。
私は、複数のPOSとデータ連携を構築し、各POSの仕様・癖・データの出方を“集計側の視点”で見続けてきました。さらに飲食企業の経営者として、現場の混乱やトラブルも散々見てきています。

「結局うちの場合どうすればいい?」で迷ったら、状況を整理するところから一緒に設計します。
相談の際は、業態(席数・ピーク帯・提供の型)と、ハンディ台数、現状のネットワーク状況、困っていることを教えてください。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。