【コラム6】情シス丸投げでは、誰もリスクを取れない

サンドバッグになれる役員が必要だ――

ある飲食企業で、基幹システム刷新プロジェクトが走りました。

キックオフでは、社長も役員も前向きで、掛け声だけは立派です。

「DX元年だ!」
「これで現場の生産性を一気に上げよう!」

ところが、いざ導入が始まると、
店舗から次々にトラブル報告が上がってきます。

  • 「前のシステムと操作感が違って現場が混乱している」

  • 「締め作業に時間がかかるようになった」

  • 「この帳票が出ないから、今月は困る」

そのタイミングで、ありがちな一言が飛びます。

「現場がここまで混乱するなら、この新システムは一旦止めよう」

プロジェクトは事実上ストップ。
最後に残るのは、

  • ベンダーへの不満

  • 情シス担当への怒りと疲弊

  • 「やっぱり前のやり方が一番」という空気

 だけです。

1. 「責任」と「権限」がねじれている

この手の失敗の裏には、ほぼ必ず構造問題があります。

  • 経営は「システムのことは情シスに任せている」と言う

  • しかし情シスには、予算決定権も人事権もない

  • 営業系の役員は現場寄りで、「混乱」の声に最も敏感

情シスは、

  • 現場の悲鳴も

  • ベンダー側の事情も

  • システムの構造的な必要性も

全部分かっています。

でも、
「それでも、この方向に進むべきかどうか」を決める権限は持っていません。

結果として、

「実務の責任だけ押し付けられ、
政治的な責任は誰も取らない」

 という状態になります。

2. DXには「サンドバッグになれる役員」が必要

DXや大きなシステム刷新は、どうやっても導入初期にトラブルが起きます。

  • 運用のほころびが表面化する

  • 想定していなかった例外ケースが噴き出す

  • 現場の負荷が一時的に増える

ここを乗り越えるためには、
「サンドバッグになる覚悟を持った役員」 が必要です。

  • 現場からの不満を一身に受け止める

  • ベンダーと情シスの間に立って調整する

  • 「一時的な混乱は覚悟してでも、この方向で行く」と言い切る

 

これは、情シス担当の役割ではありません。
経営サイドの仕事です。

3. 丸投げされた情シスは、構造的に勝てない

情シスに丸投げしつつ、責任も権限も渡さない構造のままでは、

改革は必ずどこかで潰れます。

  • 営業系役員の「現場目線」

  • 経営層の「短期的なクレーム回避」

  • 現場の「慣れたやり方を変えたくない」

 

これらが束になると、
情シス一部門では絶対に勝てません。

4. 「誰がどこまで責任を持つか」を先に決める

ティールとしてプロジェクトに入るとき、最初に確認するのはここです。

  • プロジェクトの最終意思決定者は誰か

  • 導入初期トラブル時に、矢面に立つのは誰か

  • 情シスはどこまで責任を持ち、どこから先は経営の判断にするのか

これを曖昧にしたままDXを始めると、
後から必ず「ねじれ」が表面化します。

DXは、技術の話であると同時に、
組織設計と権限設計の話でもあります。

 

情シス丸投げでは、
誰も本当の意味でリスクを取りに行けません。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。