【コラム5】SaaSを「今の業務に合わせてねじ曲げる」と、DXは必ず詰む

ある企業で、新しいSaaS型の売上管理システムを導入したときの話です。

最初の打ち合わせで、現場からこう要望が出ました。

「いま使っているExcel帳票と、完全に同じレイアウトにしてほしい」
「この“謎の補正列”も、そのまま再現してほしい」

気持ちはよく分かります。
人は「慣れた形」が安心です。

でも、その結果どうなったか。

 
  • SaaSの標準画面は完全に無視され

  • カスタマイズと追加開発で、昔のExcelを再現する作業に追われ

  • 導入後のアップデートのたびに不具合が起きる“カスタマイズ地獄”になりました

1. SaaSは「型」に寄せるから価値が出る

>SaaSは本来、

  • 何百・何千という企業の業務フローを抽象化した

  • 「こう組むと、だいたいうまく回る」という“業界標準の型”

です。

つまり、SaaS側には
**「ある程度、洗練された業務の前提」**が埋め込まれています。

DXとは、本来この「型」に寄せていくプロセスでもあります。

いまの業務フローを絶対視するのではなく、
一度解体して、SaaSの型に寄せられる部分は寄せていく。

これをやるからこそ、

  • システムはシンプルになり

  • アップデートにもついていきやすくなり

  • データ構造も標準化され

  • 他システムとの連携もしやすくなる

 

というメリットが出てきます。

2. 「うちのやり方に合わせて」という魔法の言葉

ところが飲食業界では、

「現場を守る」という名目のもとに、次のようなことが起きがちです。

  • 「うちの店は昔からこのやり方だから」

  • 「この帳票だけは絶対に残してほしい」

  • 「この数字の出し方じゃないと、現場が混乱する」

結果として、

  • SaaS側を“昔の業務フロー”に合わせてねじ曲げ

  • 標準機能が持っていた良さを、自ら殺し

  • さらにカスタマイズによって技術的負債を積み上げていく

という、本末転倒な状態になります。

3. 業務を守るために、会社が死ぬ

「現場のやり方を守る」こと自体が悪いわけではありません。

問題は、その守り方です。

  • 短期的な安心のために、長期的な柔軟性を捨てていないか

  • 一部のベテランに合わせすぎて、組織全体の成長を止めていないか

  • 「昔のやり方」を絶対視することで、若手の発想を押さえつけていないか

業務を守ろうとして、
結果的に会社の未来の選択肢を奪ってしまう。

 

これが、SaaSねじ曲げ文化の一番怖いところです。

4. 「業務を変えるDX」へ踏み込む勇気

ティールとしてご一緒するときは、ここに踏み込まざるを得ない場面が必ず出てきます。

「この列は、本当に必要ですか?」
「この手作業は、どこかの段階で“やめる決断”をしませんか?」

これは、単に機能の話ではなく、
**「業務の前提を変える」**という、かなり痛みを伴う話です。

ですが、ここに踏み込まず、

  • 「SaaSを昔の業務に合わせてカスタマイズする」方向に逃げてしまうと、
    DXはほぼ確実に途中で詰みます。

 

DXは、ツール選びではなく「業務設計の再定義」です。
SaaSの標準に寄せる覚悟が持てるかどうかが、
最初の大きな分岐点になります。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。