【コラム4】「ベンダーロックイン」より厄介な、「情シスロックイン」という病

ある飲食企業で、長年情シスを担当してきたベテラン社員の方と話をしました。

年齢は60代目前。穏やかな口調で、でも本音ではかなり追い込まれていました。

「自分がいなくなったら、この会社のシステムを誰も触れないと思います」
「だから、辞めたくても辞められないんです」

 よく聞く「ベンダーロックイン」よりも、

正直こちらの方がはるかに危険です。

1. こうして「情シスロックイン」は生まれる

情シスロックインは、次のような流れで静かに進行します。

  1. 社内でITに詳しい人が、自然と情シス担当として任命される

  2. 現場や役員からの細かい要望に、何年もかけて真面目に応え続ける

  3. ベンダーとも“裏配線”のようなカスタマイズを積み上げる

  4. 気づけば、
    「あの人以外、何がどうつながっているか分からない」状態になる

ベンダーに問い合わせても、

「その設定は御社独自カスタマイズなので、社内の情シスご担当に…」

と返されてしまう。
中の構造は、本人の頭の中にしかない。

 これが、情シスロックインです。

2. 経営視点から見ると「中枢機能の人質化」

経営の視点で見ると、これはかなり危険な状態です。

  • 売上・在庫・人件費・顧客情報など、会社の“血液”とも言えるデータが
    個人の頭の中のルールに依存している

  • 情報システムという中枢機能が、
    最も危険な「属人」という場所に置かれている

つまり、
会社の心臓と血管の設計図を、一人の個人が握っているわけです。

 

その人が病気になったり、突然辞めたりしたときのインパクトは、

本来であれば「経営リスク」として真剣に評価されるべきレベルです。

3. 「辞められない人」を作ってしまう罪

本人も苦しみます。

  • 責任感が強いほど、「自分が辞めたら会社に迷惑がかかる」と感じる

  • でも、構造的にはもう限界に来ている

  • SaaSに移したい・標準化したいと思っているのに、日々の「便利屋仕事」に追われて手を付けられない

結果として、

「情シスの◯◯さんは、定年になっても辞めないらしい」

 という“伝説的人物”が生まれます。

それは個人の美談ではなく、構造としては完全に危険信号です。

4. 情シスロックインを解く3つのステップ

ティールとしてご一緒するときは、このロックインを解くために、だいたい次の3ステップを提案します。

  1. システム全体図の可視化

    • すべての主要システムとデータの流れをA3一枚に描き出す

    • 「誰も見たことがない全体像」を、まず“絵”にする

  2. 暗黙知のドキュメント化

    • 長年のカスタマイズ仕様

    • 特殊なマスタ管理のルール

    • エラーが出たときの“裏ワザ”

  3. SaaS・標準基盤への段階的な移行計画

    • 一気にゼロから作り直すのではなく、
      「ここから順に標準化していく」というロードマップを引く

「◯◯さんがいないと回らない」状態から、
「◯◯さんがいなくても回るが、いるともっと強くなる」状態へ。

 

ここまで来て初めて、
情シス担当も“会社も”楽になり、
DXが「人に依存しない仕組み」として機能し始めます。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。