【コラム3】「システム代が高い・人件費が安い」は、インドの工場と同じ発想

若いころ、私は産業機械を売る仕事でインドに通っていました。

自動化ラインの提案をしていて、現地の工場オーナーからこんな言葉を何度も聞きました。

「機械より、人を床に並べた方が安い」

工場の床に、作業員がぎっしり座っている光景を前に、
オーナーは真顔でこう続けます。

「自動化設備を入れるより、人を増やせばいい。
インドではその方がコストが安いんだ」

 このときの感覚が、

いま日本の飲食企業でDX相談を受けるときに、何度もフラッシュバックします。

1. 「人を1人つけた方が安い」という計算式の危うさ

飲食企業でDXの話をすると、よくこう言われます。

  • 「この業務、システムを入れると月◯万円ですよね」

  • 「だったら人を1人つけた方が安い。システムは贅沢だ」

一見、冷静なコスト計算に見えます。
ですが、この計算式には 「見えていないコスト」 が山ほど抜けています。

例えば、

  • その人が辞めたときの採用・教育コスト

  • 忙しい時期にこぼれている作業と、その機会損失

  • 手作業ゆえのミスと、それに伴うやり直し

  • 店舗数が増えたとき、「人を増やす以外の選択肢がない」構造

 

こういった要素は、多くの場合「コスト」として数字に載ってきません。

2. 「安く見える」のは、時間軸が短すぎるから

DX投資は、本来 3〜5年スパンで考えるもの です。

仮に月30万円のシステム費がかかるとしても、

  • 3年でつくる価値は?

  • 5年後の店舗数を何店舗に増やしたいのか?

  • そのとき、今と同じ“人海戦術”で本当に回るのか?

こういう問いを一緒に置かないと、
投資判断としては完全に片目をつぶった状態です。

逆に言えば、

「来月・再来月のコスト」だけで判断するから、
DXがいつまでたっても“贅沢品扱い”から抜け出せない。

 ということでもあります。

3. DX投資の本当のリターンはどこに出るか

DX投資のリターンは、単純な「人件費削減」にとどまりません。

  • データが揃うことによる、経営判断の精度向上

  • 店舗数が増えても、「人を同じ割合で増やさなくて済む」構造

  • クオリティコントロールの安定化(人によるバラつきを減らす)

  • 属人化からの脱却(誰が辞めても回る仕組み)

 

これらは、短期の試算だけではなかなか数字になりません。
しかし、5年・10年のスパンで見ると、とんでもなく大きな差になります。

4. 人件費比較から、「総コストと伸びしろ比較」へ

DXの投資判断をご一緒するときには、必ずこうお話しします。

「人件費 vs システム費」で比較すると、
DXは一生“負け続け”ます。
比較すべきは、「総コスト」と「伸びしろ」です。

  • 今の運用を続けた場合の総コスト

  • DXをした場合の総コスト

  • その差額と、得られる伸びしろ(店舗拡大・業態転換・分析力)

 この視点を持てるかどうかが、

「DXが贅沢かどうか」ではなく、
「DXが生き残りに必要かどうか」 という問いに変わる起点になります。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。