【コラム1】飲食業界のDXは「技術問題」ではなく「構造問題」だ

ある上場クラスの外食企業の経営会議に呼ばれたときのことです。

最新のクラウドシステムも、店舗アプリも、一通りは導入されています。

でも、会議が始まると出てくる言葉はこうでした。

「データはたくさんあるんだけど、結局“感覚”でしか判断してない」

「どのシステムが本丸で、何を見ればいいのか分からない」

「現場からは“ITに振り回されている”という声ばかり上がってくる」

技術的には“進んでいるように見える”のに、

経営と現場には、DXの成果がほとんど届いていない。

この違和感の正体は何か。

私は、ティールテクノロジーズの代表として多くの事例を見てきて、

次のように整理しています。

DXが進まない理由は「ITが苦手だから」ではない

多くの飲食企業で共通しているのは、実は技術力ではありません。
構造的な歪みです。

代表的なものを挙げると、こんな感じです。

  • 情報システム部門・担当者に「戦略」と「権限」がない

  • 「システム代は高い・人件費は安いからDXは贅沢」という思考回路

  • ベンダーロックインだけでなく、「情シスロックイン(担当者ロックイン)」

  • 情シスに丸投げしているのに、責任も権限も与えられず、導入初期トラブルで改革が潰される

  • SaaSを「今の業務に合わせてねじ曲げる」結果、技術的負債と時代遅れを量産している

つまり本質は、

「ITがわからないから進まない」のではなく、
「会社の構造が、DXを拒むようにできている」

ということです。

2. 技術だけ入れ替えても、構造がそのままなら何も変わらない

極端な言い方をすると、

  • どれだけ高機能なBIツールを入れても

  • どれだけ有名なクラウドPOSを入れても

それを支える “経営と組織の設計図” が変わらない限り、
成果は一時的か、局所的なものにとどまります。

構造とは、例えばこういうものです。

  • 誰がIT投資の最終責任を負うのか

  • 情シス担当は「用務員」なのか、「設計者」なのか

  • 現場の声と中長期の戦略、どちらに最終的な優先順位を置くのか

  • 「人件費 vs システム費」ではなく、「総コストと伸びしろ」で判断できているか

この土台が変わらないまま、

「とりあえず新しいクラウドを一つ導入しよう」

という発想では、

DXは“高価なガジェット遊び”で終わってしまいます。

3. 飲食DXで本当に問うべきこと

ティールテクノロジーズとして、私は各社と話すときに必ずお聞きするのが、

  • 「5年後に、どのくらいの店舗数・売上規模を想定していますか?」

  • 「そのとき、いまのシステム構成のままでも回りますか?」

  • 「システムが変わることで、業務をどう変えますか?」

という、**“構造の問い”**です。

DXは、
「便利そうなツールを足していくこと」ではありません。

「会社の構造、仕事の構造を、デジタル前提で組み替えること」

です。

そのスタート地点に立てているかどうか。

そこが、飲食企業のDXの成否を分ける一番大きなポイントだと感じています。

4. このシリーズで伝えたいこと

このあと続く6本のコラムでは、

  • ドラえもん扱いされる情シス

  • 「システム代が高い・人件費が安い」という発想

  • 情シスロックイン(担当者ロックイン)

  • SaaSをねじ曲げる文化

  • 責任と権限のねじれ

  • DXを“贅沢品”から“経営インフラ”に変えていく視点

などを、それぞれの切り口から深掘りしていきます。

どれか一つでも「心当たりがありすぎる…」と思ったら、
そこがまさに、自社のDXの“つまづきポイント”だと考えてもらえると良いと思います。

ティールの斉田として、
現場と経営の両方を見てきた立場から、

できるだけ具体的に、でも本質は外さない形でお伝えしていきます。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。