“見栄えで選んだダッシュボード”が、後から効いてくる話

——AI時代に勝つ飲食企業は、まず「粒度の細かいデータ」を“今”から貯めている

導入会議で「見やすさ」が勝った日

ある飲食企業(10〜20店舗規模)の話です。※特定されないよう、複数の事例を混ぜた実話風にしています。

その会社は、売上は伸びていました。

ただ、店舗が増えるほど “本部の判断” が追いつかなくなってきた。

  • 店長の報告は頑張っているが、情報が遅い
  • 月次で振り返った頃には、原因がもう見えない
  • 人件費も原価も、上振れの理由が曖昧
  • 「今、何が起きているか」が掴めない

そこで経営陣は、売上管理・分析の仕組みを入れることにしました。

比較検討したのは2つ。

A:画面がシンプルで、誰が見ても分かる。導入も早い。

B:見える化はできるが、まず「データを正しく統合する」設計を重視している。

最終会議で、こういう空気になりました。

「正直、Aの方が見やすいよね」

「ダッシュボードって、やっぱりシンプルが正義だよ」

「現場も見ないと意味ないし、まずは分かりやすい方でいこう」

結果、Aに決まりました。

会議の終わりは前向きでした。「まずはこれで回そう」と。

——そして半年後。

ダッシュボードは、確かに“見やすかった”。

でも、会議の会話はなぜか変わりませんでした。

「先月より売上落ちてます。理由は…ちょっと分からない」

「人件費が上がってます。どの時間帯が原因?」

「値引きが増えた? 取消が増えた? それとも客層?」

「POS入れ替え(または新店のPOSが別)になったから、前年比較が怪しい」

見やすいはずの画面を前に、結局みんなが言い始めたのはこれです。

「この数字、そもそも合ってる?」

そして決定的だったのは、AI活用の話が出てきた時でした。

「需要予測」「人員配置の最適化」「メニュー別の粗利改善」「異常検知」——

やりたいことは山ほどあるのに、気づいたらこうなっていた。

  • データが日次合計レベルでしか残っていない
  • 明細(何が、いつ、いくつ、どう値引きされ、どう支払われたか)が揃っていない
  • 店舗やPOSが変わったタイミングで、定義がズレてしまい、時系列がつながらない
  • だからAI以前に「学習させる材料」がない

ここで初めて、経営者が言いました。

「あの時、“見やすさ”で決めたのが、半年後に効いてきたな…」

なぜこれは“危険な判断”なのか

結論から言います。

ダッシュボードの見栄えは、これからどんどん簡単になります。

AIと開発環境の進化で、グラフを作ること、画面を整えることは、今後さらに“コモディティ化(誰でもできる化)”していきます。

つまり、「見やすいダッシュボード」は、時間が経つほど差別化になりにくい。

一方で、データベース統合だけは別物です。

これは “見た目” ではなく、現場の運用とデータの意味を揃える仕事だからです。

  • 取消、締め直し、赤黒処理、クーポン、金券、ポイント
  • 税の扱い、サービス料、値引きの設計
  • POSや周辺システムの違い(店舗が増えるほど混在しがち)

この「現実」を飲み込んだうえで、取引データを揃え、同じ意味に翻訳し、時系列で積み上げていく。

ここが本当に難しい。だからこそ、ここに価値がある。

“粒度の細かいデータを、長く持つ”がAI時代の勝敗を決める

ここでいう「粒度(りど)」は簡単です。

  • 粗い粒度:日次売上、月次売上(合計だけ)
  • 細かい粒度:伝票・明細・支払(何が、いつ、いくつ、どう値引きされ、どう支払われたか)

AIは魔法ではありません。

過去の細かいデータがあって初めて、良い予測・最適化・異常検知ができます。

そして、ここが一番大事なポイントです。

AIが本格普及してから「じゃあ今からデータを細かく貯めよう」と思っても遅い。

その瞬間から先のデータしか貯まらない。

過去がない会社は、過去を学習できない。

飲食は季節性が強い。曜日も天候もイベントも効く。

最低でも1年、できれば2〜3年の「細かい履歴」がある会社は、AI活用の伸び方が全く変わります。

“見やすさ選定”で起きる、典型的な落とし穴

ここを整理しておきます。

落とし穴1:日次合計が中心で、原因まで降りられない

「売上は分かる。でも、なぜそうなったか分からない」

この状態は、結局現場の報告頼みになります。

落とし穴2:店舗が増えるほど、データが混在し、比較が壊れる

10店舗を超えたあたりから、出店形態・POS・運用が揺れ始めます。

20店舗になると、揺れは“前提”になります。

この揺れを吸収できない設計だと、比較が崩壊します。

落とし穴3:AI活用の入口で詰む

最初に必要なのは画面ではなく、学習させる材料(統合された明細データ)です。

そこが無いと、AIは「気の利いたグラフ」以上になりません。

経営者・幹部が押さえるべき判断基準

ここで、判断基準を「見栄え」から「資産」に切り替えてください。
比較表:見栄え重視とデータ資産重視の違い
観点 見栄え重視の選定 データ資産重視の選定
導入直後の満足度 高い(分かりやすい) じわじわ効く(最初は地味)
10→20店舗の伸び 混在で崩れやすい 混在を吸収しやすい
事故対応 原因追跡が難しい 明細から追える
AI活用 入口で詰みやすい “学習材料”が揃う
3年後の価値 画面は陳腐化しやすい データ資産は積み上がる
ここで言う“資産”とは、ブランドでも店舗でもなく、
  • 「統合され、意味が揃い、長期で蓄積された取引データ」です。

TEALがこの問題にどう向き合うか

TEALは、最初から順番を逆にしません。

  1. 取引データを細かい粒度で集める(伝票・明細・支払)
  2. 意味を揃える(POSや運用の違いを翻訳する)
  3. ズレを検知できる状態にする(合計値とも突合できるようにする)
  4. その上で TEAL BIで見せる(現場と経営が動ける形にする)

つまり、TEAL BIの価値は「画面」だけではなく、

その画面が“信じられる”前提を作ることにあります。

ここを飛ばすと、見やすい画面でも、結局疑われて使われなくなります。

最後に:いま経営者に伝えたいこと

「分かりやすいから」「見た目が良いから」で選ぶのは、短期では正しく見えます。

でも中長期で見ると、飲食企業にとって一番大きい損失はこれです。

“過去の細かいデータが残っていない” こと。

AIが加速する時代に、これは取り返しがつきません。

データは「今日から先」しか貯まらないからです。

だから、今このタイミングで一番重要なのは、

一日でも早く、粒度の細かいデータを統合した状態で、綺麗に蓄積し始めること。

見栄えは追いつけます。

でも、過去データの蓄積だけは追いつけません。

TEALは、この“前夜のタイミング”にこそ価値が出る仕組みだと考えています。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。