飲食業界におけるのれん分けに関する話をしたいと思います。
飲食業界で独立を目指す方々の話はよく耳にします。飲食店での勤務経験がない方々も、飲食店を立ち上げたい、あるいは出店したいと考えています。しかし、参入障壁が低いために、出店は容易な反面、リスクも非常に高いのです。そのため、飲食店の出店や独立を容易に推奨することは難しいと思いますが、成功の可能性が高く、失敗のリスクが低い出店方法が存在しますので、その点について話したいと思います。
飲食店や飲食企業からの独立には、大まかに2通りの方法があります。これを理解せずに出店すると、リスクが高くなります。
自分で独立起業する場合
一つ目の方法は、完全に退社し、自分で1から店を作ることです。もう一つの方法は、飲食企業からのれん分けを受けて、自分の店を持つことです。一見似ているように見えますが、実際には全く異なるため、注意が必要です。
まず、飲食店をゼロから立ち上げる場合、出店する立地を自分で選ばなければなりません。以前の飲食店での経験が役立たないことが多いのです。これは、飲食店では、たとえ同じ業態であっても、店舗ごとに戦略が異なるためです。町中で場所を変えるだけで、ニーズが大きく変わることがあります。そのため、出店する場所で、新たな戦略を練らなければなりません。さらに、資金は自分で調達する必要があります。貯金から出すことも可能ですが、かなりの貯金がなければ出店は難しいです。公的な融資もありますが、通常は500万から1000万円程度が調達できるでしょう。
しかし、それだけの資金で十分かと言うと、状況によりますが、30坪ほどの店を内装から作り、不動産の保証金を払う場合、初年度で利益を出せないことも多いです。その場合、数千万円の費用がかかることがあります。例えば、30坪の店舗であれば、5000万円ほどが必要になるかもしれません。それでもギリギリの状況になることが多いです。
飲食店の出店には確かに多額の資金が必要です。ただ、そのコストを避ける方法もあります。例えば、居抜き物件を利用したり、成功している業態のフランチャイズに加盟することも一つの手です。また、小規模な店舗を経営したり、投資家と協力して資金を捻出することも可能です。これらの方法を採用すれば、勝ち筋が見えてきて、失敗する可能性も低くなるでしょう。
のれん分けで起業する場合
次に、のれん分けについて説明しましょう。のれん分けを知ることで、独立の難易度が大幅に低くなることが理解できます。のれん分けという言葉は聞いたことがあるかもしれませんが、そのロジックをしっかり理解することが重要です。のれん分けは、飲食企業側にも独立する側にも大きなメリットがあると感じます。もちろん、双方にリスクが全くないわけではありません。
のれん分けにはいくつかのパターンがあります。まず、一つ目は非常に手堅いパターンです。
それは、現在運営中で、売り上げと利益が十分に出ている店舗の権利を、企業から独立する個人に売却譲渡することです。もう一つの方法は、現在運営しているブランドを用いて、まったく新しい場所で自分の店として出店することです。これら2通りの方法があります。具体的には、一つ目の方法では、実際に運営している店舗をそのまま譲渡します。これに関しては、売却額が店のサイズや売り上げ、利益によって異なり、中型店舗の場合、3000万円から5000万円の範囲で変動することが多いです。
このような大きな金額を、通常の独立の際に融資を受けることは難しいですが、のれん分けの場合は、金融機関がこの程度の額を個人に融資してくれる可能性があります。これがのれん分けの大きな利点です。新しい店舗をゼロから開業する場合、通常は500万円程度の融資しか受けられませんが、のれん分けでは3000万円から5000万円を借り入れることが可能です。これは、金融機関から見ても、安定した売り上げを持つ店舗の名義が変わるだけで、顧客やスタッフがそのままであり、引き続き安定した売上が見込めるためです。
そのため、既存の顧客も維持されますし、営業スタッフも基本的にはそのままです。このようにして営業を続ければ、今後も安定した売上と利益が見込めると容易に予想できます。だから、このような事業への融資は、ハードルが低いのです。この視点は非常にシンプルですが、個人が初めてこのような大きな額を借り入れる際には、やはり一定の覚悟が必要になるでしょう。
しかし、新規で店を立ち上げるのとは全く異なり、現在好調に運営している店をそのまま引き継いで運営するのは、独立する本人にとってもハードルがほとんどないと言えます。
企業側のメリットとは
次に、企業側にとってのメリットについて考えてみましょう。利益が出ている店舗を売却することで、多額のキャッシュが手に入ります。
この売却によって得た資金を使い、新しい店舗を出店することが可能になります。飲食店では、直営店からの利益の積み上げだけでは次の店舗の出店に時間がかかるため、よりスピーディな出店が可能になるのです。ただし、会社にとっては売り上げが1店舗分減少しますが、その代わりに、例えば名義利用のロイヤリティ収入や、独立した店舗のバックオフィス業務を受託するなど、さまざまな手数料で利益率を高めることができます。
それ以外のメリットとは
さらに、店舗のオペレーションに従事する社員にとっては、成功のモデルを示すことができ、社員のセカンドキャリアへのステップアップを示し、モチベーションアップにもつながります。
また、飲食店はファッションブランドと同様に、一定の期間が経過すると客の関心が薄れることがあります。売り上げが下がってくると、従来の思考回路の店長では売り上げの低下を止めるのが難しいことがあります。しかし、のれん分けによって独立したオーナーは、自ら店を盛り上げ、さまざまな工夫を生かして店を再興することが多いです。このようなパターンは、独立に非常に適していると言えるでしょう。
投稿者プロフィール
- 新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。
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