飲食業界POSレジデータの集計に問題が多い訳

最近は半導体のニュースを目にすることが多いと思います。過去20年、半導体の性能が進化してきたことにより、コンピューターの処理速度、ストレージ容量、回線速度が劇的に進化しています。そんな中、飲食業界のPOSレジのデータ運用に関しては、過去にはできなかった高いレベルの処理ができるようになるインフラ環境にはなりましたが、業界内のシステムがそれに合わせて進化しているかというと、そうではありません。

出展:https://globis.jp/courses/2bc01f62/

飲食業界POSレジデータ運用の現状

飲食業界では、エンタープライズ企業を除いて、POSレジのデータはクラウド上にある上位のシステムに集計される方式が採用されています。旧来のPOSレジがハードドライブ型のPOSレジであったためです。営業終了後のレジ締め時に1日売上データが集計され上位システムに送信される仕組みです。業界では「上位システム」「ASPシステム」「売上管理システム」などと呼ばれています。多くのベンダーからシステムが販売されています。

一方で、近年ではiPadなど市販のタブレットを活用したPOSレジが多く開発されていますが、それらはインターネット接続した環境で使用され、データは常にクラウドで保管していますので、上位の集計システムはなくても企業内での運用は可能です。

多くの中堅以上の企業では、タブレットPOSを使えばクラウド運用ができるのですが、集計と管理会計の目的で、上位の集計システムを使うのが一般的です。

上位システムの問題点

システムのインフラ環境が劇的に進化した現代において、多くの上位システムで起こっている問題や課題についてまとめたいと思います。

最も根本的な課題としては、データの粒度の問題です。多くの上位システムでは、POSレジの集計データ、主に日計集計のデータが使われています。時間別集計のデータも使われているものもあります。POSレジの持つ最も細かなデータ、取引データは使われていません。取引データはトランデータといわれ、オーダー1品ごとの注文データと、1枚ずつの伝票データ(≒レシートデータ)に分かれます。

取引データを使っていないということは、伝票毎やオーダーの詳細な分析をしたくてもできないということです。1日集計のデータではオーダーやお会計の深堀分析は何もできません。

コンピューターのCPU、ストレージ、ネットワーク速度のスペックが劇的に向上し続ける今、AIも劇的な速度で進化を続けています。飲食業界でもPOSレジの膨大なデータ利活用が誰でも自由に行えるようになる時代はすぐそこに来ています。それなのに、どの中堅大手企業も、POSレジの最も細かなデータ(トランデータ)をデータベース化できている企業はほとんどありません。

POSレジのデータ構造

なぜトランデータ活用ができないのか?

なぜ某大手POSメーカーのフォーマットが業界標準なのか?

なぜ上位システムの多くがPOSレジのトランデータをデータベース化できていないのか?その根本的な原因はそのシステムの開発された成り立ちにあります。

元は某老舗大手POSレジメーカーの日計集計のデータ集信ツールとして多くの上位システムは開発されました。よってそのPOSレジメーカーの集計フォーマットが多くの上位システムの集計フォーマットの基準となりました。

その後、タブレット型のPOSレジが多く発売されるようになり、多くの企業で大手POSレジとタブレットPOSレジの両方を使う必要性が出てきました。飲食企業の本部ではタブレットのPOSレジも老舗メーカーのPOSレジも同様に売上集計をする必要があるわけです。

しかし、POSレジの日計集計フォーマットは、POSレジメーカーごとに多くの点で異なります。それら1社ずつの異なる日計集計フォーマットを統一集計することができません。なので、元来使ってきた「某大手POSレジメーカー」の日計集計のフォーマットを新興のPOSレジメーカーに渡して、このフォーマットに集計データを変換して送信してほしいと依頼したという流れです。

よって、新興の各POSレジメーカーでは、某老舗大手POSレジメーカーフォーマットに日計集計データを変換して、毎日、上位システムにデータ送信をしています。

起きているデメリット

業界内では、これまでその「大手老舗POSレジメーカーフォーマット」で日計集計が統一集計されています。特に問題なく運営されているケースがほとんどですが、様々な問題が起きているのも事実です。

POSレジの集計ルールや集計項目の区分など、メーカーによって異なる点が多くあります。某大手POSメーカーも多くのメーカーの一つであり、決して業界の基準でも規範でもありません。よって集計に無理が生じることが多く発生します。さらに、その大手POSレジメーカーフォーマットを渡された新興POSレジメーカーも、そのフォーマットについて、カラムごとの定義や仕様も明確に理解しているわけではありません。よって変換した際に変換のミスなどが起きています。

さらに、変換が手動であるデメリットも起きています。POSレジメーカーのユーザー企業でレジキーの追加があった場合(例えば、値割引、金券、支払い種別など)、上位システムへの送信データに、それらの変更を手作業で追加しなければなりません。

まだあります。店舗の現場ではレジ締め忘れや開局ミスが時折起きます。その際には、正しい日計集計が送信されません。その修正作業や、再送信の依頼による再送信作業など、新興POSレジメーカーには、上位ステム連携のための日常的なエンジニア作業が発生しています。

トランデータが使われない理由

各POSレジメーカーの日計集計フォーマットが異なるならなぜ、トランデータ(注文データ、伝票データ)を使わないのでしょうか?さらに日計集計の統一フォーマット(某POSレジ大手メーカー)変換のデメリットがあるのに、なぜトランデータを使わないのでしょうか?

トランデータを集計するには、それぞれのPOSレジメーカーのトランデータから集計するための計算式を全て解読し再現する必要があります。POSレジの集計ルールや計算ルールはあまりにもバラバラです。1社だけでも再現する難易度が高いのに、次々とPOSレジメーカーが誕生する現在で、POSレジ全メーカーの集計演算を再現をするのは不可能に近いわけです。

よって、まず日計集計をつかう。さらにもっとも古いメーカーのPOSレジの日計集計フォーマットに他のPOSレジも変換してもらい送信してもらう。という現在の飲食業界のPOSレジ集計の標準型が出来上がりました。

TEALはトランデータから集計

最初に結論を言いますと、当社では、POSレジの集計データは、全てのPOSレジの元データであるトランデータ(注文データ、伝票データ)を使っています。それはなぜか?前日の日計集計を使うデメリット、某老舗大手メーカーのフォーマットを使うデメリットをなくすためと、最も重要なのは、深堀分析が自由にできるデータベースを飲食業界に提供するためです。

ではどうやって、その難易度の高さをクリアしたのか?

裏技はありません。実データを見ながら、計算式をシミュレーションして、一つずつの計算式を見つけていきました。かなりの時間と工数をかけました。実際は、私自身がデータを見た時に、その背後のシーンを容易に想像できたことが大きいです。データベース言語は独学で学びました。POSレジの様々なレアな取引パターンのデータを見た際に、その一つ一つの情景をイメージすることができたのが大きな要因だと思われます。飲食業を長年経営してきたからこそ達成できた技でした。当初は優秀なエンジニアの方に依頼しましたが、データを見ただけでは理解できないという意見ばかりでした。

こうして、業界内のPOSレジメーカーの統一フォーマット集計をトランデータから実現しています。これまでのデータ集計のボトルネックとなっていた技術の壁を初めて超えることができました。

それは複数のPOSレジを活用している飲食企業にとっては当然多くの利益をもたらします。しかし、単一のPOSレジのみを使っている企業にとっても多くのメリットがあります。

POSレジ1種類の利用企業でも課題がある理由

単独のPOSレジを使っている場合で、クラウドのタブレット型のPOSレジの場合、集計のダッシュボードはウェブブラウザで閲覧可能です。しかし、そこで集計されているデータでは充分な集計カラムは存在していません。一般的に使われる主な項目しか集計されていません。

分析をドリルダウンして深堀分析がしたい、独自の指標で分析がしたい、と思っても、POSの中にそのデータが存在していても、POSレジメーカーが集計していない限り、その分析はできません。

POSレジメーカーが考えるより多くの分析指標は実際は存在してます。

TEAL BIでは、POSレジメーカーのトランデータを独自で集計しているため、POSレジメーカーが集計していない、めずらしい項目も含めて多くの指標を集計することができます。

そのことによるメリットに関しては、別の記事で詳しく解説していきます。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。