FL管理は月次ではなく日次管理が重要なわけ

FLの管理は月次ではなく日次管理な重要なわけ

ポイントを一言で言うと「アメーバ経営」です。これは人件費や原価の両方を日次で管理することを指しています。飲食店を経営していると、月次管理よりも日次管理の方が重要だと感じます。これは大企業でも中小零細企業でも、個人経営でも変わりません。

月次でコストを算出する場合、通常は月末に締めを行い、翌月の早くて15日、遅いと25日頃に前月の結果がわかります。人件費の場合、給与計算を行った後に各店舗に振り分け、原価については棚卸を行い、仕入れ高や売上原価を確定値として算出します。

こうして確定された数字をもとに、「先月はコントロールができたかどうか」を振り返るのが一般的ですが、振り返るタイミングが遅いため、「先月の人件費がなぜ高かったのか」「原価がなぜこんなにかかったのか」といった話をしても、原因を思い出せないことが多いのです。

そうなると、「原価高騰によるものです」「人件費が上がったためです」といった曖昧な答えしか返ってこないのが現実です。こうした言い訳は、上場企業のIR資料にもよく見られますが、具体性に欠けています。長く経営していると、こういった状況を何度も経験します。

そこで重要になるのが「アメーバ経営」です。この考え方は、飲食店で言えば、店舗ごと、さらには日次単位で収入と支出を部門ごとに明確に管理し、日々コントロールしていくというものです。日次での算出はあくまで仮の数字で、完全な確定値ではありませんが、それでも毎日現状を把握し、使いすぎているのか、足りているのかを日々追いかけることが重要です。

 

このように日次管理を徹底することで、コストの管理が徐々に精密になり、最終的には数字をきちんと合わせることができるようになりました。仮の数字でも日々の確認が重要で、これがアメーバ経営の本質だと感じています。稲盛さんが日本航空を再生させた際にも、このアメーバ経営の考え方を取り入れていました。

飲食店でも同様に、日次での管理を行うことで、月次でしか見えてこなかった問題点を早期に把握でき、経営の改善に直結させることができます。最初は仮の数字でしかなくても、日々の管理が積み重なることで、精度が上がり、経営の精密度が高まるのです。

これは4月のある店舗の売上の進捗です。水色が予算、濃いブルーが実績で、昨年と一昨年のデータもこちらに表示されています。4月の途中段階、今は19日ですが、売上の現状が非常によくわかります。

1日ごとの売上が予算に対してどう動いているかを見てみると、予算よりもだいぶ上振れして推移しているのが見えますね。

次はコストコントロールについてです。こちらが原価の推移を表すグラフで、このお店では原価を30%に設定しています。それに対して、実際の仕入れの納品ベースでの推移はオレンジの線で示されています。ご覧のとおり、だんだんと予算通りに収まってきているのがわかります。

このグラフが示しているのは、売上が予想よりも上振れして伸びている状況で、仕入れがその売上に対して適正に推移しているかを確認できるということです。ここで「なんでわざわざ日々の仕入れを確認する必要があるの?」と思うかもしれません。棚卸でまとめてコストを把握すれば良いのでは、と私も考えていました。

たくさん仕入れても、最終的には棚卸で残った分を算出するので、その時点で仕入れ高が多かろうが少なかろうが、使った額は変わらないはずだ、と。前月の仕入れ残高に当月の仕入れ金額を加え、最終的に月末に棚に残った金額を差し引いて、当月に実際に使った額を算出する、これが理論上の考え方です。

つまり、多めに仕入れたとしても、最終的な使用額には影響しないというわけです。ですが、実際に日々仕入れを追いかけて、仕入れ高が当月の売上に見合ったパーセンテージになるよう管理することには別の効果があるんです。これは心理学的なコントロール手法で、実際にやってみて気づいたことですが、トヨタ生産方式と同じなんです。

飲食業も、結局は製造業と同じだということに気づきました。トヨタ生産方式をきちんと実行することが何よりも重要です。つまり、在庫をできるだけ最小限にし、細かく仕入れを調整しながら棚の在庫を減らしていくという考え方です。

飲食店もまさに同じで、棚卸を月末にするから、別にたくさん仕入しても問題ないと思われてしまうのですが、実はその方法だと長年、全く仕入原価が合わなかったんです。その後、日次の管理で仕入れ高をコントロールするようになってから、原価がきちんと合うようになりました。現場で働く料理人やスタッフと話をしていて気づいたのですが、彼らはメニューの品切れを避けたいがために、どうしても多めに発注する傾向があるんですね。頻繁に「今、材料が品切れです」と言いたくないわけです。

キッチンスタッフの習性が影響

どうしても仕入れをするたびに、多めに発注する癖があるんですよね。これは私も最初は気づかなかったんですけど、料理人から話を聞いて、そういうものなんだと納得しました。でも、こうして多めに発注していると、在庫がどんどん膨らんでいくんです。

例えば、冷蔵庫の奥に高級な肉が埋もれていて気づいたら賞味期限が切れていたり、棚に商品が増えすぎて、賞味期限の管理が甘くなるんですって。実際にやっていない人には分からないことですが、在庫が増えると管理が難しくなるんですね。

だから、棚卸しや在庫管理は、できるだけミニマムでやるべきだということです。仕入れ在庫=商品=現金なんです。仕入れ在庫が多く眠るということは、多くの現金が使えない状態でとどめられている状態になっているということです。企業はできるだけ多くの資産を使える現金にすることで、より成長を作り出すことができますが、在庫が多い=企業が使える現金が少ないということになります。

さらに原価が高くなる原因の一つとして、在庫が多すぎると料理人の気が大きくなってしまうという話がありました。料理人が「盛り付けのポーション」って呼んでいるものですが、少しずつ盛り付けの量が増えていくそうです。だんだんと大盛りになっていくんですね。料理人だけでなく、ホール側のスタッフもそれに気づいているそうで、「盛り付けが大きくなってきている」と感じることがあるんです。

だからこそ、仕入れ在庫はできるだけ最小限に抑えるべきなんです。

売上予測の精度が重要

そうすると、最終的に重要なのは「売上予測」ということになります。売上予測が曖昧だと、在庫をギリギリに攻めることができません。

売上予測が重要だと改めて感じるわけですが。売上予測がAIでどこまでできるのかという話になりますが、実際にこの分野では多くの会社がチャレンジしています。ただ、飲食店の売上に影響を与える外的要因は数え切れないほどあり、それぞれのお店によって影響の受け方も違います。天気に敏感なお店もあれば、全く影響を受けないお店、人の流れに左右されるお店もあれば、そうでないお店もあります。

こういった多様な要因があるため、AIによる予測もまだ難しい部分があります。ただ、長く経営していて感じるのは、現場のマネージャーの売上予測が本当に見事だということです。大きく外れた予測を見たことがありません。

現場のマネージャーは毎日お店に立ち、今の流れを見ながら予測を立てています。例えば、週末の天気がどうで、お客さんの流れがどうなっているかを見て、今後1ヶ月の売上を見事に予測しているんです。これが外れることはほとんどないです。

コロナの前後のように、予測が難しい時期もありましたが、基本的に現場のマネージャーの予測は非常に正確です。やはり、日々の現場で得られる感覚に基づいた予測が、飲食業において重要だと感じます。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。