飲食業界がブラックと言われる理由

修行は労働時間なのか?
線引きの難しさが飲食業界の課題

今回は飲食業界の労働環境の問題について書きたいと思います。

よく飲食業界はブラックな会社が多いと言われがちですが、私はそこに矛盾を感じることもあります。何かというと、一つはやはり一流の職人になるためには修行をしなければならない、そして企業側はトッププロを育てなければいけないという義務があるわけです。

なぜそうあるべきかというと、やはり飲食業というのは、歳をとってきた時に簡単に引退して、若い時に貯めた貯金や財産・資産によって運用して将来年金だけで悠々自適に生活できるような世界ではありません。やはり給与は低めですし、歳をとっても働き続けなければいけないケースが多いのが実情です。

そのような中で単純作業ばかりでプロとしてのスキルを身につける機会が持てなかった人は、この先歳をとった時に待ち受ける世界は結構地獄だな、、と思います。

私たちはそんな人を多く輩出する企業にはなりたくないと強く願っています。

やはり、働いていく中で一流のプロになってもらうことですごく独立もしやすくなりますし、こじんまりと自分が食べていく分のビジネス、飲食店を経営していくことも他の産業に比べると簡単にできるわけです。  

こうして考えると、やはり一流のプロを育てるということは飲食企業にとってはすごく重要なポイントだと私自身考えています。そこで、一流のプロになるためには、やはり修行をする必要がありますが、「修行」と「労働」の境目がすごく難しいと感じています。

以前、とあるブランドのケーキ屋さんで過重労働によって書類送検されたというニュースについて、匿名でこのような書き込みがありました。

 ”私はミシュラン 3つ星の店で働いています。私にとっては修行は労働ではないので、極端な話、帰る時間がなければ、会社や近くのネットカフェで夜を明かし、1週間家に帰れないこともある。周りから辞めたら?と言われても、自分はこれにしがみついて頑張っていきたい。独立したら24時間365日休みなんてあるわけない。自分は成功したいから、それを受け入れて、自分で修行して、明るい未来があることを信じて頑張っているんだ。これは職業じゃなく、自分の「生き方」なんだ。だからお願いだから余計なことしないでほっといてくれ。”

このコメントを読んだ時、私は心を打たれました。

こうやって思える、言い切れる人は、絶対成功するだろうなと。

もちろん過重労働を肯定するわけではありません。ニュースになった店ではやはり過重労働させていたかもしれないし、細かいことはわかっていないので私はそこに対して評価するつもりは一切ありませんが、「修行」と「労働」の境目はすごく難しいと感じています。

更に労働時間でいうと、国からの縛りもだんだんと短い時間になっている現実の中で果たして訓練や修行まで含めて全部終わらせて一流のプロが育てられるかというと、なかなか厳しいものがあると思います。正直、自分の会社はどうなのかというと、そこはすごく厳しく管理をしていて、長時間労働をしないように、サービス残業を絶対しないように、と固く言っています。

お店に行って練習したり、修行みたいな形で研究だけしている場合も、ちゃんと打刻をして労働時間内でやるようにと厳しく管理をしています。しかし、これは企業の経営者として課せられた義務としてやらなければいけないことなのでしっかりと管理をしていますが、この人のように成功を夢見て、覚悟を決めて、本気で修行したい人にとっては、ものすごくやりづらい環境になっている、結構無理難題なんだろうな・・・と感じています。

他の例で言うと、プロ野球選手にとっての居残り練習は残業なのか?アイドルに本気でなりたい、歌を本気でやりたい人にとっての練習はどうなのか?その職人を育成する上での修行は労働時間なのか?練習って労働時間なのか?というような、線引きの難しさが業界の中での課題だなとすごく感じています。

「成功を掴み取りたい職人」

「スキルを身につけ一流のプロになってもらいたい企業」

「労働管理徹底の法律」

これらの矛盾は飲食業界にとって大きな課題です。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年ティールテクノロジーズを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。