冒頭の例話:同じ「売上1,000万円」なのに、会議が荒れる日
ある飲食企業が、M&Aで店舗数を一気に増やしました。
AブランドはPOSベンダーX、BブランドはPOSベンダーY、Cブランドは券売機系でZ。
本部は「全店の売上を同じダッシュボードで見たい」と言い、各店舗から日次データを集めて、BIで横串のレポートを作り始めました。
最初の1週間は、見た目はうまくいっているように見えました。
UI(画面)は整っている。グラフも綺麗。店舗も「見やすい」と言う。
ところが、月末の役員会で事件が起きます。
- 店長が言う「レジの日計」と、BIの「日次売上」が合わない
- 経理が言う「会計の売上」と、BIの「売上」が合わない
- さらに厄介なのが、店舗によってズレ方が違う
「BIが間違ってるのか?」「いやPOSが違うからだ」「経理の締め処理のせいだ」
会議は“犯人探し”になり、誰も得をしない空気だけが残る。
ここで気づくべき本質は、こうです。
画面(UI)を揃えても、標準化は進まない。
本当に揃えるべきは、トランザクションの意味解釈=集計ロジックである。
なぜUIではなく「集計ロジック」が本丸なのか
飲食の現場で日々起きている取引(トランザクション)は、見た目以上に“クセ”があります。
しかも、そのクセはPOSベンダーや店舗運用によって、平気で変わります。
たとえば、同じ「値引き」でも、
- 商品単位の値引き(明細に紐づく)
- 伝票全体の値引き(小計に対して)
- クーポン値引き(販促費扱いにしたい場合もある)
- サービス料を値引きするのか、しないのか
同じ「取消」でも、
- オーダー取り消し(キッチンに行く前)
- 会計取消(締め直前のVoid)
- 返品(Refund:締め後のマイナス取引)
同じ「税」でも、
- 内税・外税
- 端数処理(切り捨て/切り上げ/四捨五入)
- 店舗単位で処理するのか、伝票単位で処理するのか
こういう“意味の違い”が、最終的な売上や客単価の差になって表れます。
つまり、標準化とは「項目名を揃えること」ではなく、
何を売上に含め、何を除外し、
どの時点の取引を採用し、
どう丸め、どう分類するか
…という集計の定義(ルール)を揃えることです。
“標準化が進まない”最大の理由:議論の焦点がズレている
業界の標準化議論は、どうしても以下に寄りがちです。
- 「このカラム名は何にする?」
- 「このフォーマットはCSVかJSONか?」
- 「どの画面で見せる?」
もちろん必要です。が、これは標準化の“最後の工程”です。
UIやフォーマットは、いわば「翻訳後の文章の体裁」にすぎません。
翻訳の辞書(意味)が揃っていなければ、どれだけ綺麗な文章に整えても、内容がズレます。
集計ロジックとは何か:ざっくり定義すると「KPIの作り方の憲法」
ここで言う集計ロジックは、単なる計算式ではありません。
飲食のKPIを作るための「採用ルール」「分類ルール」「補正ルール」のセットです。
例:よくズレる論点(これが標準化の核心)
- 売上(Sales)は何を指す?
税抜?税込?サービス料込み?割引前?割引後? - 値引き(Discount)の扱い
売上のマイナスとして扱う?販促費として別建て? - 取消(Void)と返品(Refund)の区別
オペミスなのか、顧客都合なのか、締め後なのか - 支払(Tender)の扱い
現金・カード・QR・ギフト・ポイント充当…をどう分類する? - 売上日(Business Date)の定義
25時の会計は当日?翌日?
営業日締めの境界をどう置く?
OFSCで“やるべき標準化”はこれ:共通の集計定義(=共通言語)を策定する
OFSC(そしてOFSCゲートウェイ)が本気で価値を出すなら、次が王道です。
1) 共通の「取引モデル」を定義する(イベントの骨格)
最低限、以下が矛盾なく表現できるモデルが必要です。
- 伝票(Transaction)
- 商品明細(Line Items)
- 調整(Adjustments:割引、サービス料、クーポン、税)
- 支払明細(Tenders:現金、カード、QR、ポイント、ギフト等)
- 状態遷移(作成→更新→取消→返品…)
ここが「標準フォーマット」の真の意味です。
“列を揃える”ではなく、“取引の構造を揃える”。
2) KPIごとに「算定の定義」を明文化する(ここが本丸)
そして、ここからが重要です。
KPI(売上、客数、客単価、値引率、取消率…)は、**式よりも前に「採用ルール」**が必要です。
すぐ使える形に落とす:KPI標準化のチェック表
| KPI | “式”より先に決めるべきこと | ここがズレるとどうなる? |
|---|---|---|
| 売上 | 税・サービス料・割引・クーポン・ポイント充当の扱い | 店舗ごとに売上が合わない/前年差が歪む |
| 客数 | 伝票の人数?明細の数量?テイクアウトの扱い? | 客単価が崩壊する/繁忙分析が嘘になる |
| 値引率 | 値引きを売上控除にするか、別費目にするか | “施策の効果”評価が逆転する |
| 取消率 | VoidとRefundを分けるか、営業日を跨ぐ扱い | 不正検知や教育指標が使い物にならない |
| 支払構成 | QR・ギフト・ポイント・売掛の分類 | 決済手数料や資金繰り予測がズレる |
この表に入る論点を、OFSCとして「共通定義」にしていく。
これが、標準化の“仕事”です。
じゃあTEAL Gateway/OFSCゲートウェイは何をするのか
ここまでの話は「思想」ではなく、実装に落とせます。
むしろ、実装まで落とした瞬間に標準化は強くなる。
TEAL Gateway(およびOFSCゲートウェイ)が担う役割は、シンプルに言うと:
POSごとのRAW(生データ)を、
共通の取引モデルに翻訳し、
共通の集計ロジックで再計算して、
誰が見ても同じ数字を出す
つまり「翻訳機+検算機」です。
UIはその“結果”として自然に揃います。
順序が逆なんです。UIから揃えようとすると崩れます。
結論:標準化とは「見せ方」ではなく「意味」を揃える作業
飲食のデータ標準化は、言い換えると「同じ言葉で会話できる世界を作る」ことです。
ここでの“言葉”とは、カラム名ではなく、数字の意味です。
- 売上とは何か
- 客数とは何か
- 値引きとは何か
- 取消とは何か
- 営業日とはどこで区切るか
これが揃ったとき、初めて“業界で使える標準”になります。
そして、その標準を実装として配れるのが、ゲートウェイの価値です。
投稿者プロフィール

- 株式会社ラックバッググループ 代表取締役CEO
- 新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年、飲食業界向け売上管理&分析システムTEAL BIを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。
最新記事
お知らせ2026年1月2日電子レシートが普及しない“構造”と、OFSCゲートで「実装する」意味
お知らせ2026年1月1日日計集計の罠:トランザクション基盤にすると何が変わる?
お知らせ2025年12月31日エンジニアがギブアップしたPOS生データを、経営者の僕が解読した理由
お知らせ2025年12月30日標準化の“本丸”はUIじゃない。集計ロジックだ
