飲食店が成長すると生じる課題

店長が分析に熱心であればあるほど、現場の士気は下がりやすい。

飲食店で良く起こりがちなことですが、業界全体の問題を反映しています。この店を何とか改善して少しでも売り上げをアップさせたいという想いが強い店長で、少し器用だったりすると、店舗のバックヤードのスタッフルームのパソコンで、システムからCSVダウンロードした数字をエクセルでグラフを使って分析作業をやります。自分で体感している現状に対する答えを導き出すために。そうすると、スタッフルームにこもりがちになります。本人は熱心に仕事をしているつもりです。しかし現場のアルバイトスタッフからは、クレームが上がり始めます。あの店長は仕事をしない、サポっているというのです。細かいことはわからないアルバイトスタッフから見える姿は店長の後ろ姿。何をしているのかはよくわかりません。こうして現場の士気、アルバイトのモチベーションはどんどん落ちていきます。


店長のすべきことは、店舗スタッフのチームをまとめることです。

店長の必要なスキルとしては、パソコンスキル、エクセルスキルよりも、サービスマンとしてのスキル、チームリーダーとしてのスキルのほうが重要。本来は不要なはずだが、今日の飲食店の店舗の責任者は多くのパソコン作業による事務作業が多く存在しており、店長業務に必要なスキルとされている。サービスマンとしての評価が非常に高いが、事務作業スキルが低いため評価されない店長も見かける。非常にもったいないと感じています。
パソコンスキルがある人よりも、人の心がわかる人が上に立たないとサービス業のチームはうまくいきません。と言いたいところですが、現実はそうさせてはくれません。

コストコントロールが最も重要

最小単位部門ごとに売上とコストを日次管理するアメーバ経営の管理ができないと飲食店では利益は出せません。さらに言うと、売上を伸ばすことよりもコストコントロールが重要です。

なぜコストコントロールができないと儲からないのでしょうか。飲食店で利益を出す方法は、売上をアップさせること、コストを正しくコントロールすることに分けられます。両方重要ですが、もうかっていない多くの店舗では、どちらかというとコストコントロールが後回しになり、売上をアップさせる施策のほうが優先されているケースが多く見られます。しかし、これだと利益は残せません。売上は他力本願。一方で、コストは自分で管理できます。自分次第です。

売上は、そもそも、お客様がお店のことを気に入ってくれて、来店してくれるから売上アップにつながるわけです。お客様の感情が全てです。強引にその気持ちを買うことはできません。なので、いくら頑張ってお客様に気に入ってもらおうと新規来店施策やリピート来店施策を行っても、来店を決めるのはお客様です。強引に来てもらうことはできません。

お客様の心をつかむ施策がヒットするかどうかはわかりません。最初は全く当たらなくても、PDCAをひたすら回して、だんだん確率を上げていくしかありません。要するに時間がかかり、お金がかかるものです。利益が出ていない店は、その施策をあれこれやっているうちに、資金が底をつきて閉店せざるを得なくなります。売上をアップさせることを優先させることはギャンブル的な施策になります。

コストコントロールの大切なポイント

一方で、コストコントロールはすべて自分次第です。他力本願の要素は全くありません。今日から実践でき、今日から結果が出ます。自分がやるかやらないか、それだけです。でも多くの飲食店で後回しになってしまうのはなぜか?それは、多くの支出の集計、管理、分析の手作業が煩雑だからです。
コスト集計、管理、分析が自動になったら、だれでも今日から取り組めます。コストを正しく管理していけば、利益はすぐにでも出すことができます。もちろん、最低可能損益分岐ライン以下の売上しか出せていない店は、コスト管理だけでは利益は出せませんが。

飲食店はコストを正しく管理しないと利益を捻出できません。その中でも主に管理すべきは、人件費と仕入原価です。これを日次で把握してコントロールし続けないと利益は出ません。よくある事例では、売上は十分上がったはずなのに、利益額を計算してみると赤字だったというもの。

それ以外の経費は、店舗の現場での管理努力の割に金額的な効果があまりないものが多くあります。さらには現場では関係なく、元々の契約上決まっているものや、現場努力のしようのない経費が多くあります。水光熱費なども現場努力で削減できる範囲もありますが、一定レベル注意して無駄遣いしないようにする以上は、削減はできません。

人件費の管理ポイントは、売上に対して想定範囲の金額や%に収まっているかを管理することが重要です。どのレベルの人件費が妥当な数字なのかは業態ごと、立地店ごと、売上水準でも異なります。毎月の想定売上に対する、想定人件費を、話し合いながら綿密に決め、日次で売上推移と人件費推移を追いながら、月次着地値に常に目を光らせてなければなりません。
そのためには売上見込みの精度を上げないと、人件費の着地の精度も上がりません。仕入れ原価も同じです。事前に設定した理論原価通りに、売上の構成が成り立ち、理論原価通りに原価率が着地しているかのチェックが重要です。

日次管理の重要性

なぜ月次ではコントロールできないのか?日次管理の重要性を紐解きたいと思います。通常の飲食店であれば、仕入原価と人件費が適切な水準だったかは、月次で管理をしています。毎月月末に締まり、翌月20~25日ごろに月次の収支の結果がでて、店長会議などで話し合うのが一般的です。
その際に交わされる会話にヒントがあります。
経営者「前月の原価率はなぜ合わなかったの?話し合って25%で設定したはずだけどなぜ26.5%になったの?この1.5%も増えた原因は何?」
料理人「。。。。。1分ぐらい沈黙。おそらく、野菜の高騰とかでしょうか。。。それとも、アルコールがあまり売れずに料理が売れたからじゃないですか?」という会話がよく交わされます。先月のことなど、翌月の末ごろに聞かれても、正直よく覚えていないのです。それに原価がアップダウンする理由はかなり多くの理由がありますので、感覚的にとらえるのは難しいのが現状です。もちろん仕入れ材料の価格の高騰が原価率アップにつながることもありますが、その理由であれば本社レベルで簡単に把握できています。なぜかアップしてしまっているという状況が頻繁に起き、それの理由が本部からはわからないことが多くあります。
原価管理は日次で行わなければ、合わせることはできません。1か月以上前にどういうことが発生していたかを正確に覚えている人はあまりいないからです。

原価が上振れする理由は在庫過多が原因であるわけ

結論から言うと、適切な原価管理は、適正在庫、ミニマム在庫にできるかがカギとなります。料理人のメンタルが影響しているポイントです。現場では、常に食材の欠品によるメニュー欠品を恐れています。発注のタイミング毎に少しずつ多めに発注してしまうという現象がおきがちです。そうすると結果的に、在庫量が少しずつ膨らんでいってしまう。少しずつ在庫過多になっていきます。長年住んだ家には、無駄なものがたくさん保管されていき、どんどん収納余地がなくなっていくようなイメージと同じです。

おきがちな連鎖を書いてみます。「いい加減な売上予測」→「いい加減な発注」→「少し多めの発注の繰り返し」→「過剰在庫」→「気持ちが大きくなる」→「提供ポーションが大きくなる」、「在庫管理が甘くなる」→「廃棄が多くなる」→「原価率が上振れ」という流れです。賞味期限切れ。提供するポーションサイズが徐々に大きくなる。原価の高い食材が賞味期限切れして、廃棄に。まかないが少しずつ豪華に。これらの連鎖が原価率アップにつながっているわけです。

やるべきことは、ギリギリ最低限の量で、発注頻度を上げる。在庫をできるだけ最小限にすることです。在庫量が多いということは在庫スペースを多く必要とし、その面積分の賃料を払わなければならなくなるということを理解して下さい。ミニマムな発注は、売上予測が正確でないと、難しくなるため、正確な売上予測が必要になります。要するに、トヨタ生産方式のカンバン方式が、飲食業界でも非常に重要ということです。在庫商品=現金であるという強い意識を持つことが大切です。現状、日次管理を阻むものは、煩雑な手作業です。自動的な集計と分りやすい表示でないと日次管理の手法は使えないでしょう。仕入れ管理ツールから仕入れ高をダウンロードし、売上と掛け合わせ、日次原価率を算出する作業を毎日エクセルでやるには、非常に効率が悪いものです。自動化できる作業は全て自動化することがポイントになります。

投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年ティールテクノロジーズを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。