飲食経営者からスタートアップ経営者へ

前回の記事の続きです。

強いブランドは、業態モデルや商品も強いところが多いですが、それよりもフォーカスを「働いている人」にあてています。教育であったり、人がいきいきと働ける環境づくりだったり。それにより、店舗の現場で働く人全てが、本部の言いなりで作業をこなすのではなく、自分ごととして、自分の頭で考えて行動できるようにする。
これは、飲食業にとどまらず、サービス業にもとどまらず、多くの組織において共通した戦略です。

飲食企業の成長のジレンマ

飲食企業は規模が大きくなればなるほど、各店舗の情報が本部や経営層に集まるようにする仕組みづくりに苦労しますし、本部から各店舗への情報共有の方法にも苦労するようになります。情報共有に手間がかかり、タイムリーに行えなくなります。
店舗数が増えるスピードに対して人材育成が追い付かず、店舗の現場ごとに判断できる人が育っておらず、経営層も増える店舗全ての状況把握が正確にできなくなっていきます。
さまざま点において、マニュアル化され、戦略や仕事が画一化され、判断がトップダウンになっていき、現場に重要な情報が下りてこなくなる傾向があります。

経営と現場が近かったころは、店舗の現場での仕事はまだ創造性あふれる仕事だったのが、会社がどんどん官僚的になり、指示通りに作業をするロボットのような作業になってしまいがちです。
多くのチェーン店でそれを感じます。皆がロボットのように全く同じ口調でセリフを話しかけてくる。いらっしゃいませ。ご注文をどうぞ。店内ですか?お持ち帰りですか? こちらが何を話しても、ロボットのように返事をしてくる。一人一人の顧客の細かいニーズは無視するかのようです。

一方で勝ち組のサービス業の店舗に行くと、スタッフ一人一人が個性を持って、人として会話をしてくれる。そのスタッフ自身が目の前にいるお客様にどうしてあげたいか、目の前にいるお客様と会話をしながら、どうしてあげたいかを自分で考えている。一人一人の顧客と向き合う姿勢を示しています。

どちらが顧客満足度が高いかは明らかです。マニュアルが良い悪いということではありません。どういうマニュアルにするかという問題です。
ロボットのような作業をさせられる店、自分の言葉として会話をする店、どちらが優秀な人材が集まるでしょうか?

ロボット作業タイプの店では、客層も悪くなりがちです。顧客もますます無愛想に対応してしまう。人は鏡です。相手を見てそれに合わせた対応をしてしまうのです。そしてますますロボット化が加速。そんな仕事は楽しくないので、良い人材も集まりません。時給単価を上げるしかなくなる。一方で、後者の店は仕事が楽しく、顧客からのイメージもよく、良い人材もが集まりやすくなります。たとえ時給が高くなくてもです。

多様化する外食業界、飲食企業

時代の移り変わりが早く激しいこの時代で、垂直統合型のトップダウンでは、店舗ごとの細かなニーズの変化や違いに対応するスピード感がなく、取り残されてしまいがちです。今の時代こそ、それぞれの店舗ごとに、顧客のニーズ感を肌で感じている店舗スタッフが、データと照らし合わせ、変化に機動的に対応できることが非常に重要になっています。

その中で、キーとなるポイントが情報の民主化です。店舗の現場で働く人が簡単に重要な指標の分析データにリーチできれば、それに越したことはありませんが、それが難しいのが飲食業界の長年の課題でした。

現場のスタッフが、細かなデータを簡単にタイムリーに把握できれば、どう改善すべきなのかは、現場で考えることができます。それがサービス業の醍醐味でもあります。あーしろこーしろと指示されるがままの仕事が楽しいはずはありません。

飲食店の経営においてよくあるシーンですが、店長会議で店舗マネージャーが体感をベースに、こういう改善を新たにやってみたいと言ってきても、経営者は、そのマネージャーの言っている体感の裏付けのデータがないので判断できません。あくまでも体感ベースでの判断は認められないことが多く発生します。

一方で経営者から、わかってるつもりで各店舗に対して改善を指示した場合、経営者は店舗現場の体感はないために、その指示が的外れなことが多々起こります。
体感を持っている現場にデータという武器を与えれば、店舗の改善はうまく回るようになります。

体感をベースにデータが裏付けになり、どう改善すべきか?を店舗で話し合い、店舗で決めて実行する。そしてお客様に喜んでもらえるようになる。その反応が直接感謝の言葉として聞くことができる。言葉で聞こえなくても表情から感じることができる。これが店舗仕事の醍醐味です。さらに優秀な人材も育ちやすい。仕事が楽しくなる。店舗が儲かるようになる。給料も上がりやすくなる。そういう店には人が集まります。

売上の分析、ABCの分析、仕入、人件費などのコストコントロールなどが、日次でタイムリーに簡単にデータ分析できるのは今の飲食業界では難しいと言えます。実際のところ、飲食店の現場ではほしいデータ分析が簡単にできる環境はほとんど見当たりません。

なぜ飲食業では数字の把握が難しいのか?

飲食店の事務作業は非常に煩雑です。現金取引で毎日多くのやり取りを顧客と行い、取引業者も食材から飲料、消耗品までありとあらゆる仕入れ先が存在し、店舗ごとに水光熱費や家賃の支払い、様々な経費の支払い業務が存在します。さらにアルバイトスタッフが多く、入退社が頻繁に行われ、そのたびに労務担当者が手続きに追われます。非常に煩雑な集計作業、報告作業などに追われるため、集計と分析作業にかなり手間がかかりますが、多くの飲食企業は手作業やエクセル作業に追われています。

売上やコストを集計管理をするツールはありますが、すべて固定化された帳票ベースで表示されるシステムであり、他のシステムとの連携は難しいため、売上×●●といった連携した分析をするには、すべてエクセル上で集計しなければなりません。

さまざまな角度で、多角的に柔軟に、シンプルにデータを管理分析できるツールが業界内で開発されずに来ました。理由はいくつかありますが、飲食業界はほとんどが個人や零細、中小企業で成り立っています。業界シェア1位の会社でも2%前後のシェアしかありません。中小企業でも利益率が低いこともあり、本格的なツールの導入をする余裕もありません。洗練されたツールが発展してこなかったという歴史的背景があります。

もう一つの理由としては、一昔前に基幹システムとして、売上やコストなどを管理するツールは多く作られましたが、昔のシステム開発の思想で作られたシステムであり、アップグレードもされず現在も多くの企業がその一昔前のパッケージシステムを長年使い続けています。新機能は追加されず納品されたときのまま。新機能を追加しようとすると、その要件定義をしなければなりません。飲食店にそのような要件定義をするスキルがある人が少ないのと、莫大な開発費を請求されることになります。

その後時代は変化し、システム開発のパーツ化、コモディ化が進みました。現在主流となっているのはSaaS型で、個別機能に絞り、他のツールとAPIを使って有機的に連動し、日々進化発展していく形です。最近の飲食業界のその他のツールは、インフォマートや予約管理システムや、その他さまざまなツールはSaaS型で開発されているため、新機能が次から次へと登場します。そのようなツール開発に取り組む人が業界の中に誰もいないということに気が付きました。そこが当社のスタートした由来です。


投稿者プロフィール

斉田 教継
斉田 教継株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役CEO
新卒で産業機械メーカーに就職。インドで単独での市場開拓を経験。その後、ドイツ商社、外資系生命保険会社で経験を積み、2007年にラックバッググループ共同創業。飲食企業経営をしながら、2020年ティールテクノロジーズを立ち上げる。飲食経営者兼、飲食業界DX開発者でもある。