数字が読めるようになったことと、店が当たることは別の能力です|飲食業はクリエーションである

管理の精度だけを上げても当たらない店は潰れること、そして客数・客単価・リピート・時間帯という数字は当たったかどうかを知るための鏡であることを対比した TEAL BI の記事アイキャッチ

【結論】このコラムでは、原価率、人件費率、FLコントロール、時間帯別の生産性と、管理の話を繰り返し書いてきました。それ自体は間違っていません。ただしどれだけコストコントロールが優れていても、どれだけ管理が行き届いていても、店は潰れます。飲食業はクリエーションだからです。管理は「負けないための条件」であって、「勝つための条件」ではありません。数字が読めるようになったことと、店が当たることは、まったく別の能力です。そのうえで数字を見る理由は1つだけあります。自分のクリエーションが当たっているのかを、思い込みではなく事実として知るためです。

管理の話ばかり書いてきましたが

今日は、少し厳しい話を書いておきたいと思います。飲食業界の中の議論を聞いていると、この一点が置き去りにされたまま進んでいる場面が、あまりに多いと感じるからです。

どれだけコストコントロールが優れていても、どれだけ管理が行き届いていても、店は潰れます。飲食業はクリエーションだからです。クリエイターとして成功できない限り、店の成功は一切期待できない。それだけのことです。

ヒット曲が作れなければ、食えません

音楽にたとえるなら、ヒット曲を作れないミュージシャンと同じです。練習時間の管理が完璧でも、機材のコスト管理がどれだけ上手でも、曲が当たらなければ食えません。

飲食も同じです。当たる店を作れなければ、いくら数字を締めても潰れるだけです。

管理は「負けないための条件」であって、「勝つための条件」ではありません。ここを取り違えている経営者は、実に多い。数字が読めるようになったことと、店が当たることは、まったく別の能力です。

この関係は、対称ではありません

さらに踏み込んで言えば、両者は釣り合っていません。

コストコントロールがある程度雑でも、クリエーションとして優れていて、当たる施策を次々と生み出せるパワーがあれば、店は儲かってしまいます。これは理屈ではなく、現場を見ていれば分かる事実です。原価率が数ポイント緩くても、席が毎日埋まり、客が指名で来る店は、普通に利益が出ます。

逆はどうか。管理が完璧で、原価も人件費も一円単位で締まっているのに、誰も来たがらない店。これは静かに、しかし確実に潰れます。

同じ「片方だけ優れている」でも、結果は対称になりません

管理だけが完璧

静かに、確実に潰れます

  • 原価も人件費も、一円単位で締まっている
  • それでも、誰も来たがらない
  • 締めるところが、もう残っていない
クリエーションが優れている

それでも儲かってしまいます

  • 原価率が数ポイント緩くても、席が毎日埋まる
  • 客が指名で来る
  • 当たる施策を、次々と生み出せる

管理は「負けないための条件」であって、「勝つための条件」ではありません。

図1:管理とクリエーションのどちらか一方だけが優れている2つの店。ゲージは左右とも同じ目盛で、上が管理、下がクリエーション。結果は対称にならない。

つまり「雑な管理+優れたクリエーション」は勝ち、「完璧な管理+凡庸なクリエーション」は負けます。この非対称を認めないまま、管理の精度を上げる議論だけを続けている場面が、業界にはあまりにも多いのです。

ただし「雑でも勝てる」には賞味期限があります

ここで1つ、正確に付け加えておかなければなりません。

「管理が雑でも当たれば儲かる」は、数店舗までの規模でこそ成立する話です。店舗数が10、30と増えていくと、話が変わります。

理由は2つあります。1つは、粗さが店舗数の分だけ掛け算になること。1店舗で許容できた数ポイントのブレは、30店舗になれば会社の利益をまるごと消す規模になります。もう1つは、創業者のクリエーションが全店に行き渡らなくなること。当たった感覚を持っている人間が1人しかいない状態で店を増やせば、増やしたぶんだけ薄まります。

ブレの大きさは変わっていません。店舗数の分だけ掛け算になります

1店舗数ポイントのブレは、利益で吸収できる
10店舗同じブレ幅が、無視できない金額になる
30店舗会社の利益を、まるごと消す規模になる

管理を入れる理由は、精度を上げたいからではありません。同じ粗さが、店舗数の分だけ効いてくるからです。

図2:1店舗あたりのブレ幅は、どれも同じ数ポイント。店舗数が増えると掛け算になり、会社の利益を超える。

ですから、成長する会社は、どこかの段階で必ず管理を入れることになります。それは避けられません。店舗ごとの数字を並べて、どこがどう違うのかを見る作業は、規模が出てきた会社には必ず要ります。具体的な進め方は「売上が伸びていないのに、棚卸高だけ増えていませんか」や「棚卸高は、店舗ごとにいくらが適正か把握できていますか」に書きました。

ただし、それでも順番は変わりません。管理を先に積み上げたところで、当たらない店が当たるようにはなりません。管理は、当たったものを増やし、守り、再現するための技術です。当てるところから始まらなければ、守るものが何もない。

ただし「ヒット」の規模は、自分の店のサイズでいい

とはいえ、全国規模の大ヒットを作る必要はありません。ヒットの定義は、自分の店のサイズで決まります。

10席の小さな店なら、その10席を毎日満席にできれば、それは立派なヒットです。100席の店を全国100店舗、毎日満席にしろという話ではない。個人店なら、自分の店の席を毎日責任を持って埋められるかどうか。そのレベルのクリエーションでいいのです。

逆に言えば、店舗数が多い企業ほど、埋めなければならない席の総数が増えます。だから必然的にマーケティングの話になり、より広い層に当てにいく設計が要る。小さい店ほど、ニッチに振り切れる。これは規模による有利不利ではなく、戦い方そのものが違うということです。

そしてもう1つ。ローカルで評価される店になれるかと、広いエリアから客を呼べる店になれるかは、まったく別の話です。同じ「満席」でも、どちらを狙うかで作るものが変わります。ここを混ぜて考えると、狙いのぼやけた店になります。

メニューも、箱も、内装も、世界観も、すべてクリエーションです

メニューを作るのはクリエーションです。物件を選び、箱を店として成立させるのもクリエーション。内装もそう。店の世界観を作り上げるのも、そうです。

つまり飲食店を作るという行為は、最初から最後までクリエイターの仕事でしかありません。数値管理はその上に乗るものであって、その下にあるものではない。

クリエイターとして成功しない限り、店の成功は一切期待できない。厳しいですが、これが飲食業の現実です。

それでも数字を見る理由

では、管理や数字は何のためにあるのか。

自分のクリエーションが当たっているのかどうかを、思い込みではなく事実として知るためです。

作り手は、自分の作ったものを正しく評価できません。だから客数が、客単価が、リピートが、時間帯別の入りが、代わりに答えを返してくれます。FL比率のように、店の状態をひとまとめに見る指標もそのためのものです(FL比率とFLR比率について)。

数字は、クリエイターが自分の作品を客観視するための鏡です。管理のために数字を見るのではなく、次のクリエーションのために数字を見る。順番を間違えないことです。

TEAL BIについて

TEAL BIは、(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けの経営データ統合ダッシュボードです。複数メーカーのPOSレジ・勤怠・仕入の各データを自動連携し、統一フォーマットに変換したうえで、店舗別・日次でFL比率・確定原価率・人件費の着地見込みを可視化します。複数の飲食企業で本番稼働しています。グループ代表自身が20年以上にわたって飲食店経営の現場に携わってきた経験から立ち上げた事業で、現場の経営者が本当に必要とする数字が実装されているのが特徴です。

この記事に書いたとおり、私たちが作っているものは「勝つための道具」ではありません。当たった店をどう守り、どう再現し、次に何を作るかを判断するための鏡です。そこを勘違いした売り方はしたくないと考えています。お問い合わせはこちらから承っています。

執筆:斉田 教継((株)ラックバッググループ / (株)ティールテクノロジーズ 代表取締役)
20年以上にわたり飲食企業の経営に携わる。(株)ラックバッググループが提供する飲食企業向けデータ統合ダッシュボード「TEAL BI」の事業を主導する。一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム データ標準化分科会長として、業界共通POS標準フォーマット基盤の構築を主導。

投稿者プロフィール

斉田 教継株式会社ラックバッググループ 株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役
斉田 教継(さいだ のりつぐ)
株式会社ティールテクノロジーズ 代表取締役
株式会社ラックバッググループ 代表取締役
20年以上にわたり飲食企業の経営に携わる。現在は飲食企業向けデータ統合ダッシュボード「TEAL BI」を運営する。一般社団法人オープン・フードサービス・システム・コンソーシアム データ標準化分科会長として、業界共通POS標準フォーマット基盤の構築を主導。